【TIFF】クロージング・セレモニー授賞式・会見レポート
第29回東京国際映画祭の最終日(11/3)、クロージング・セレモニー授賞式が行われ、各賞が発表された。コンペティション部門・全16作品の中から、クリス・クラウス監督(独)の「ブルーム・オヴ・イエスタディ」が最高賞の東京グランプリとWOWOW賞の二冠に輝いた。クラウス監督は『4分間のピアニスト』(06)で世界的に高い評価を得ているが、本作ではホロコーストという歴史的なテーマを当事者の孫世代の目線で軽やかに描いて、新たな視点とその挑戦的な姿勢が審査員から評価された。監督は会見の席で「私のロマンティックな心と、和解に対する希望を込めました」と作品への想いを語った。本作はフランスの人気若手女優アデル・エネルが被害者の孫役で出演している。
客席の投票によって選ばれる観客賞は、トランスジェンダーの半生を力強く描いたジュン・ロブレス・ラナ監督の「ダイ・ビューティフル」が受賞し、さらにヒロインを美しく演じきったパオロ・バレステロスも、初主演作で最優秀”男優賞”を獲得した。ジュリア・ロバーツ風のメイクで登壇したパオロさんは「てっきり女優賞かと思ってました(笑)」とはにかんで、会場の笑いを誘った。ラナ監督は前作の「ある理髪師の物語」(13)でも最優秀女優賞をもたらし、俳優の才能を引き出す手腕を本作でもあらためて印象づけた。本作は映画祭最終日に配給決定が公表され、一般公開される予定。
スウェーデンの歴史のダークサイドを描いた『サーミ・ブラッド』も審査員特別賞と最優秀女優賞のW受賞で会場を沸かせた。サーミ人のヒロインを演じたレーネ=セシリア・スパルロクさん(19)は初主演作品での受賞となる。彼女は実際にサーミ人であり、トナカイの飼育を家族に託して来日。会見では「今後のことはまだわからないけど、トナカイの世話と女優の仕事を両立できたら」と笑顔をみせた。アマンダ・ケンネル監督もサーミ民族の血を引いており、処女長編となる本作で自らのルーツを扱った。また本作は映画祭期間中に配給が決まり、話題を集めた。
最優秀監督賞は、監督デビュー作となる「私に構わないで」を撮ったクロアチアの女性監督ハナ・ユシッチさんが受賞し、最優秀芸術貢献賞は文豪・老舎の短編を原作としたメイ・フォン監督の「ミスター・ノー・プロブレム」が受賞した。コンペティションにノミネートされていた日本映画の「雪女」と「アズミ・ハルコは行方不明」は無冠に終わった。
今年のコンペティションは若手の女性監督 –「サーミ・ブラッド」のアマンダ・ケンネル(スウェーデン)、「私に構わないで」のハナ・ユシッチ(クロアチア)、「天才バレエダンサーの皮肉な運命」のアンナ・マティソン(ロシア)、そして「雪女」の杉野希妃 –、の活躍が目立ち、華やかに存在感を印象づけた。また、今フィリピン映画が世界を席巻中だが、「ダイ・ビューティフル」にも見てとれる”自由で挑戦的な作風と新たな才能の発見”が、観客賞という結果で日本の観客にも受け入れられたことを証明した。
その他の受賞作品・受賞者は以下のとおり。
——— コンペティション ———
東京グランプリ :「ブルーム・オヴ・イエスタディ」/ クリス・クラウス監督
審査員特別賞 : 「サーミ・ブラッド」/アマンダ・ケンネル監督
最優秀監督賞 :ハナ・ユシッチ監督/「私に構わないで」
最優秀女優賞 :レーネ=セシリア・スパルロク/「サーミ・ブラッド」
最優秀男優賞 :パオロ・バレステロス/「ダイ・ビューティフル」
最優秀芸術貢献賞:「ミスター・ノー・プロブレム」/メイ・フォン監督
観客賞:「ダイ・ビューティフル」/ジュン・ロブレス・ラナ監督
WOWOW賞 :「ブルーム・オヴ・イエスタディ」/クリス・クラウス監督
その他、惜しくも受賞を逃したノミネート作品:「天才バレエダンサーの皮肉な運命」「空の沈黙」「浮き草たち」「フィクサー」「アズミ・ハルコは行方不明」「雪女」「パリ、ピガール広場」「誕生のゆくえ」「シェッド・スキン・パパ」「7分間」「ビッグ・ビッグ・ワールド」
——— アジアの未来 ———
作品賞:「バードショット」/ミカイル・レッド監督
——— 日本映画スプラッシュ ———
作品賞:「プールサイドマン」/渡辺紘文監督
第29回東京国際映画祭
会期:平成28年10月25日(火)~11月3日(木・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか 都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:http://2016.tiff-jp.net/ja/ik