【TIFF】パリ、ピガール広場(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

© LA RUMEUR FILME - HAUT ET COURT DISTRIBUTION

© LA RUMEUR FILME – HAUT ET COURT DISTRIBUTION

仮出所中のナセルは、兄のバーを手伝うが身が入らない。やがて自分が得意とするクラビングをビジネスとして立ち上げようとするが、ぎくしゃくとしていた兄との仲は一層悪化していく…。歓楽街を舞台に、移民系の男が底辺から這い上がろうとする様を描く人間ドラマ。

パリの歌舞伎町とも称されるピガール地区は、猥雑な歓楽街である一方で、近年は若者が住みたがる人気の地区でもある。様々な人が行き交うこの地を舞台に、本職はメッセージ系のラッパーである監督コンビが、現在のパリを象徴するリアルな人間模様を描き出した。人物に近く寄り添うカメラにより、観客も映画の中のドラマを生きることになる。パリのナイトライフの裏側に、移民系フランス人兄弟の葛藤の物語を交え、初監督作とは思えない臨場感溢れる演出力が発揮されている。主演のレダ・カテブは現在のフランスを代表する若手演技派の一人であり、強面から善玉まで幅広く演じる力により、W・ヴェンダース監督最新作を含め、国の内外で出演作が相次いでいる。(TIFF公式サイトより)

クロスレビュー

藤澤貞彦/・・・それでもピガール広場に行くのは躊躇われる度:★★★☆☆

パリ9区、オペラ座や大手デパートが続くオスマン大通りがあるかと思えば、歓楽街ピガール広場を抱える不思議な区である。健全さと不健全さが同居する区。犯罪映画の舞台になったり、『大人は判ってくれない』の舞台になったりしているところ。不法移民は雇わないと、経営するバーの健全さを歌いながらも、その実、用心棒になってくれている男を、小遣いを与えて店に置いている兄。這い上がるためには手段を選ばない弟。この2人はまるで9区を映し出す鏡のようでもある。弟レダ・カテブの後ろをついて人ごみを通りぬけていくカメラは、まるで水中で魚が泳いでいるかのようであり、ピガール広場の日常を自然に写しだしていて、実に魅力的だ。ここを拠点に活動するアメ、エクエ共同監督だからこそ撮れる映像と言えるだろう。これは2人の兄弟を通して映しだされた、ピガール広場自身の物語。そのパワーは今まで観た、この界隈のどの作品ともひと味違っている。これもまたパリなのだ。

杉本結/心で街を感じる度:★★★☆☆

この作品の内容の奥の深さに序盤は少々おいていかれ気味だった私も中盤からは兄弟の横で一緒に食事をしたり会話をしているような感覚になりました。作品全体を通してカメラの位置が人物とかなり近いのですが、窮屈な近さではなく隣にいる感覚に観客を取り込む絶妙な距離感になっています。仮出所中の弟と共同経営して店を切り盛りしている兄という最初の設定から徐々に明かされる家族の過去がそれぞれの視点から描かれる。パリ・ピガール広場は日本の歌舞伎町のような街と言われるほど様々な人が行き交う街だという通りに「1人ずつがどのように生きながらえているのか」生きていくことに良いとか悪いとかそんなこと考えてる余裕はない!というメッセージ性の強い作品でした。

富田優子/エネルギッシュな街の魅力度:★★★☆☆

パリの歓楽街で生きる兄(スリマヌ・ダジ)と弟(レダ・カテブ)の葛藤と再生の物語。堅実に生きる兄と博打的に行動する弟という対極の二人だが、豊かな暮らしを望む点は共通している。その根底にあるのは二人が移民系の出身であることに起因しており、人種間の格差の根深さを感じる。
本作の舞台であるピガール地区のエネルギッシュな様子には惹きつけられるが、それはそこで生きる人々の鬱憤を晴らす場だからであろう。健全な明るさとは違う、どこか後ろ暗さのあるパワフルな街として描かれており、監督二人に縁のある地ということで彼らの愛情も感じる。その反面、登場人物の心情を描くというよりは、音楽的な雰囲気に乗せられている感もあり(監督がラッパーということが大いに作用しているのだろうけれど)、内面描写にはもう一歩踏み込んでほしかった。せっかくのメラニー・ロランが添え物的な扱いであるのも少々残念。


第29回東京国際映画祭
会期:平成28年10月25日(火)~11月3日(木・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか 都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:http://2016.tiff-jp.net/ja/

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