【TIFF】雪女(コンペティション)
作品紹介
小泉八雲原作「怪談」の一編である「雪女」を新たな解釈のもと、杉野希妃監督が映画化、自ら雪女とユキの2役を演じている。杉野の長編監督作品としては、『マンガ肉と僕』『欲動』に続く第3作となる。
ある時代、ある山の奥深く、吹雪の夜。猟師の巳之吉は、山小屋で、雪女が仲間の茂作の命を奪う姿を目撃してしまう。雪女は「このことを口外したら、お前の命を奪う」と言い残して消え去る。翌年、茂作の一周忌法要の帰り道。巳之吉は、美しい女ユキと出会う。やがてふたりは結婚し、娘ウメが生まれる。14年後。美しく聡明な少女に成長したウメは、村の有力者の息子で、茂作の遠縁にあたる病弱な幹生の、良き話し相手だった。しかしある日、茂作の死んだ山小屋で幹生が亡くなってしまう。幹生の遺体には、茂作と同じような凍傷の跡が。巳之吉の脳裏に、14年前の出来事が甦る。自分が見たものは何だったのか、そしてユキは誰なのか‥。
クロスレビュー
杉本結/1度、目があったらそらせない度:★★★★★
雪女役で主演の杉野希妃が監督、脚本も手がける今作は今まで映像化されてきた雪女のおどろおどろしいイメージとは全く違った。良い意味で期待を裏切ってくれた。美しさの中に秘める妖艶さと家族との関係性が現代にも寄り添うかたちになっているのだ。混血の娘ウメにクローズアップしていた点も女性監督ならではの視点で面白い。
「動物は冬眠中に子育ての夢を見る」という台詞の言葉のチョイスはセンスの塊でしかない。
富田優子/雪女とは愛そのもの度:★★☆☆☆
これは果たしていつの時代の物語なのか・・・?と首をかしげたくなるような登場人物の衣装。着物姿だったりスーツ姿だったりと序盤は混乱させられた。だがこれは本作において大きな問題ではない。むしろ本作において、俗世の人間の世界と人間以外の別のものが棲む世界の境界はなく、混在していることを表現しているのであろう。基本的には人間と雪女の愛の物語だが、愛の実体とはいったい何なのであろうか。心も身体もいかに愛し合っていても、約束を破ればとたんに消えてしまうような儚いものだ。雪女を愛そのものに見立てた点も面白い。
神秘的な世界を盛り立てる景観も素晴らしい。特に雪景色に関しては、息を呑む美しさ&妖しさで雪女の世界にふさわしく、見所の一つだと言えよう。ただ少女たちの舞の儀式などは海外には「エクゾチックぅ」と映るかもしれないが、日本人の心にどう響いたのかは好みが分かれそうだ。
第29回東京国際映画祭
会期:平成28年10月25日(火)~11月3日(木・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか 都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:http://2016.tiff-jp.net/ja/