【TIFF】浮き草たち(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

©2016 Over the Barn, LLC

©2016 Over the Barn, LLC

ダニーは将来有望なシェフ。インチキな兄から、ある仕事を頼まれた。仕事内容は単純で、ブリーフケースを持った運転手と一緒にリゾート地に行って、別のブリーフケースと交換するというもの。嫌々引き受けたダニーだったが、ことはそう単純には進まない。焦るダニーの前に、謎の少女が現れる。

カンヌ始め、多くの映画祭を巡ったA・レオン監督処女作『Gimme the Loot』(12)は、NYのストリートを舞台にグラフィティ・アーティストたちの友情を描くものだった。使い古された設定をリブートして評価された監督は、2作目となる本作でも、スリラー仕立ての青春ラブ・ストーリーというジャンルに見事に新風を吹き込んでいる。若者の心理をリアルに捉え、困難な状況を設定しつつもユーモアを忘れず、クールな映像と音楽の組み合わせにセンスを発揮し、爽やかな後味をもたらしてくれる期待の才能である。主演のC・ターナーは『グリーン・ルーム』(日本公開17年2月)で注目されたイギリス出身の26歳で、出演作が多数控える新鋭。(TIFF公式サイトより)

クロスレビュー

北青山こまり/もうちょっとしっくりくる邦題をつけてあげたい度:★★★★☆

頼りないけどどこまでも優しい少年ダニーと、素直さを隠したくて一所懸命ツンツンする少女エリー。どうやってもお似合いな二人を見守っているうちに、物語はぐんぐん進んでいきます。耳障りのいい音楽と、風景のレトロな色使い、そしてファッションがちょっとダサいのも可愛らしい。エリーはワンピース姿もさることながら、ダランとしたTシャツにデイバックでもあそこまで仕上がっちゃうわけで、美人とはこういうものなんだなと軽く打ちのめされた。ダニーは移民の子であり、エリーは威圧的な恋人の元を離れられず、なにもなければこれからも息苦しい毎日を生きていくしかなかったふたりの未来が、偶然の出会いがもたらしたカラフルな2日間によって大きく開けていく。幸せで泣きたくなるような<ボーイ・ミーツ・ガール>だった。レオン監督の温かい視線に、ありがとうを言いたい。

鈴木こより/古き良き時代のアメリカ映画再現度:★★★★★

ラストのキスシーンの初々しさといったらもう。出会いこそ現代風だけど、このラブストーリーには往年のアメリカ映画の趣が散りばめられている。しかも、それがさりげなく今の空気に溶け込んでいて…新鮮! 若いカップルの服のチョイスや会話に感じるちょっとした違和感、髭を剃るシーンなど、途中で「ん?」と思いはじめる。登場人物もどこかのんびりとしていて、忍び込む家は高級住宅街なのにセコムしないどころか鍵開けっ放しだったり、ポーランド系移民の主人公の母親にまったく英語が通じなかったり、”運び”をしくじっても殺されなかったり。時代錯誤感と遊び心に満ちた仕掛けが粋で楽しい。物語も演出も驚くほどシンプルでオールドスタイル。主人公がとにかく走って走って走りまくる姿が印象的。

藤澤貞彦/主役2人の魅力全開度:★★★★☆

どこか頼りない感じのするダニーと、クールな振りをしているけれど、全然そうではない少女エリー。ひょんなことから、運び屋の仕事を一緒にすることになるのだけれど、最初からうまくいきっこない感が漂っていて、実際やっぱりそこか!というところで、大失敗をしてしまう2人が、実に可愛らしい。原題はTramps 放浪者たち。品物の入ったブリーフケースを取り返すべく探し回る2人だったのだが、目的地に真っ直ぐ向かっていっているようでいて、どこか回り道をしてしまう。それでも意外に切羽詰まった感がなくて、いつもフラフラのんびりしている2人の様子から、Trampsというタイトルになったのだろう。あるいは、まだ親元で暮らすダニーとニューヨークとピッツバーグの間で揺れ動き、自分がどこに行くのかいまだわからない2人の様子をTrampsとしたのだろうか。英国の若手俳優カラム・ターナー、気の強さと可愛さが同居していて、かつ美しさが光るグレース・ヴァン・パタン、どちらもとても魅力的で、この共演は2人が売れっ子になった後、浮き草ならぬ“語り草”になるのではなかろうか。その日はもう近いはずだ。★ひとつは2人の魅力に対して。


第29回東京国際映画祭
会期:平成28年10月25日(火)~11月3日(木・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか 都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:http://2016.tiff-jp.net/ja/

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  1. ここなつ映画レビュー

    「浮き草たち」第29回東京国際映画祭

    コンペ作品。アメリカ映画。監督はアダム・レオン。原題は「TRAMPS」。好きな作風だった。他愛もない平凡なラブストーリーであるが。ある出来事をきっかけに偶然出会った2人が行動を共にする内に恋に落ちて行く。ここではないどこかを目指して旅立とうとする。そう、最後のQ&Aで監督自らが望んでいたように、幸せな気分になった。しがないアパートの一室に響き渡る競馬のレース中継のアナウンス。ダニエル(カラム・ターナー)はここで母と私設ノミ屋を行っている。客は近所のうらぶれた年寄りたち。彼らが散々五々帰った後は、アパ…

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