【TIFF】ダイ・ビューティフル(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

(c)The IdeaFirst Company Octobertrain Films

(c)The IdeaFirst Company Octobertrain Films

美女コンテストで優勝したトランスジェンダーのトリシャが突然死してしまう。彼女の望みは、埋葬前に幾夜も行われる儀式で、毎回違うセレブの装いをまとうこと。友人たちは団結してトリシャの願いを叶えようとする。トリシャが生きた、カラフルでちょっと変わった一生を思い起こしながら。息子として、姉として、母として、友として、恋人として、妻として、そして女王としての人生を。

ある理髪師の物語』(13)でユージン・ドミンゴにTIFF最優秀女優賞をもたらしたラナ監督新作は、またもや俳優が見事に際立つ作品である。トランスジェンダーのヒロインの笑いと涙に満ちた生涯と、レディ・ガガの姿で逝きたいという彼女の遺言を叶えようとする友人たちの姿を、巧みなフラッシュバックを駆使して感動的に描いてみせる。苦境をはねのける明るさと、生への肯定に満ちた人物像の創造こそが、ラナ監督の真骨頂であるといえる。驚異的な存在感を発揮する主演のパオロ・バレステロスは、フィリピンのバラエティ番組のホスト役などで活躍しており、有名人になりきるインパーソネーター、そしてメークアップ・アーティストとして知られている存在である。

クロスレビュー

杉本結/棺桶の中に入っても美しくありたい度:★★★★★

美女コンテストで優勝することを夢見るトランスジェンダーのトリシャが突然死してしまう冒頭から徐々に過去へとフラッシュバックしていく物語の構造にグッと引き付けられる作品。トランスジェンダーであるがゆえに苦しむ出来事と舞台の上ではキラキラと美しく輝く1人の人としての人生を家族、恋人、友人と様々な目線で描くことにより、トリシャ自身が感じていた孤独も最後まで「ありのままの私自身を愛してほしい」という力強いメッセージに感じました。友人とのやり取りは本当に楽しく笑えるシーンも多く様々な感情を引き出されること間違いないです。

鈴木こより/死化粧がハリウッド版ざわちん度:★★★★☆

『ある理髪師の物語』でも感じたけど、今作もヒロインの強く美しい人生に圧倒される。ミスコンの舞台でひときわ煌めくオーラを放つ彼女の笑顔には、美しさだけではない、もの哀しさが感じられるのだが、その波乱万丈の人生がフラッシュバックで甦り、観客は彼女の苦悩や愛憎の瞬間を共有することになる。偏見に屈することなく、究極の美を追い求める姿はパワフルでいて繊細、ときに行き過ぎていて可笑しくもある。理解されなくても、受け入れられなくても立ち上がり、ただでは死なないその執念に胸熱。ヘアメイクをすべて自身で施したという主演俳優のパオロ・バレステロスさんの多才ぶり、セクシーぶりに脱帽。

藤澤貞彦/アンジェリーナ・ジョリー度:★★★★☆

こんなにも華やかで、幸福なお葬式があるのだろうか。7日間、毎晩ジュリア・ロバーツ、アンジェリーナ・ジョリー等セレブたちの化粧を施して、美しく送られたい。そんな望みを抱くトランスジェンダーのトリシャと、それを本当に実行する友達。トリシャの人生から教えられるのは、自分自身を貫き通すこと。フラッシュ・バックで語られる彼女の過去は、決して楽なものではないのだが、常に自分らしさを忘れず、友達を大切にし、前向きに生きる人生だった。「生まれ変わっても、自分になりたい」自信を持ってそんな言葉を言える生き方の清々しさ。しかし、これはなかなか言えるものではない。映画を観終わった時、お葬式が美しかったのではなくて、彼女自身の生き方が美しかったということが、よくわかる。トランスジェンダーの人を描いた作品というと、まだまだ特殊な世界と感じる映画が多い中で、本作は、それを特殊と感じさせない、素直に彼女たちの気持ちに入っていけるドラマへと昇華されている。


第29回東京国際映画祭
会期:平成28年10月25日(火)~11月3日(木・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか 都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:http://2016.tiff-jp.net/ja/

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