【TIFF】ブルーム・オヴ・イエスタディ(コンペティション)
作品紹介
ホロコーストのイベントを企画する頑固な男が、強引な性格を理由に担当を外される。納得のいかない男は、風変りなフランス人インターン女性と独自に準備を続けるが、やがて意外な事実に行き当たる・・・。
日本を含め世界でヒットを記録した『4分間のピアニスト』(06)にて、獄中の天才ピアニスト少女と戦中の辛い記憶を抱える老女の交流を描いたC・クラウス監督は、今回もホロコーストというヘヴィーな題材を、ユーモアや恋愛を交えて鮮やかに語ってみせる。凄惨な歴史の記憶を継承する重要性と、人間味溢れるラブ・ストーリーとを両立させる巧みさに、職人技が伺える。主演のラース・アイディンガーは、舞台俳優として活躍する一方、いまや国境を越えて活躍する欧州映画に欠かせない存在である。共演のアデル・エネルは現在のフランスきっての売れっ子であり、ダルデンヌ兄弟監督新作でヒロインを演じて今年のカンヌ映画祭の話題をさらった。(TIFF公式サイトより)
クロスレビュー
富田優子/戦争の悲劇を孫の代で描く挑戦度:★★★☆☆
『4分間のピアニスト』は傑作の部類に入る作品なので、その監督の最新作と聞いて期待していたのだが、残念ながらその期待値に達することはできなかった。とはいえ男はナチスSSの孫、女はアウシュヴィッツで殺害された女性の孫の立場で出会うという、戦争体験者の次々世代にスポットを当てた挑戦は面白いと思う。孫の代に至っても戦争のトラウマに苦しめられるというのは、戦争体験の記憶がきちんと継承されている証とも言えるし、様々なアプローチで戦争の悲劇に迫ろうとするドイツ映画人の試みには感心させられる。またナチスに協力したメルセデス・ベンツの車をめぐる二人の丁々発止のやりとりなど、ところどころで挿入される戦争に関する小ネタは興味深い。ただ、いかんせん男は性格が非常に悪く、女は過剰にエキセントリックで(彼らの行動はナチスの蛮行に起因することを考慮するとしても)、二人の恋愛模様が飛躍しすぎてついていけなかった・・・。
外山香織/ラストに救われた度:★★★★☆
シビアな話なのかと思ったらちょっと違うベクトルだった。正直登場人物にも共感持てず、冒頭に(ホロコースト研究者は自制ができる人間でないと)と宣った教授の言葉が、終わってみると全くその通りだと思う。ナチに殺された祖母を持つ女と、ナチ党員を祖父に持つ男。彼らを引き合わせたのは過去の因縁か、運命なのか。継承されていく虐殺の記憶、自らの血統に苦しむ2人。それでも、彼らは現代に生きていかなければならない。ところで、劇中出てくる「カルミナ女帝の詩」はオルフの「カルミナ・ブラーナ」と関わりがあるのだろうか?「おお、フォルトゥーナ(運命の女神)!」のフレーズでも知られるカンタータ、もしそうなら2人の出会いと結末を象徴するものでもあるだろう。ブルーム・オヴ・イエスタディ……どんな過去も、きっと未来に花を咲かせることができると信じて。
藤澤貞彦/主人公の性格破綻度:★★★☆☆
ナチスの時代を体験した世代が亡くなっていき、ホロコーストの研究所の中心も、今や3世代目となっているというのは、ドイツも日本も当然ながら同じである。その3世代目に焦点を当てたという点が、切り口として新鮮でとても興味深い。穏やかに見える老教授の住まいは、執念、怨念の巣窟のようであるのに対して、研究所のイベントはどこか中身が形骸化しており、温度差がよく出ている。それなら3世代目となれば、加害者と被害者の子孫は、本当に分かりあえるのかという問題を、ラヴコメ風にアレンジしたところが、本作の大胆なところではあるのだが、例えば加害者の側は精神的な問題で子孫を残せない身体となっていたり、被害者の側は自殺願望があるなど、主人公の男女2人に、3世代目の苦悩を背負わせ過ぎてしまっている。そのため、2人がもはやエキセントリックな性格破綻者にしか見えなくなったという点が、この作品の弱点になってしまった。とはいえ、このような違った切り口の作品が次々と作られるドイツを見るにつけ、ドイツと日本との戦争教育の違いが、こんなところにも表れているのかなとも、思ってしまうのである。
第29回東京国際映画祭
会期:平成28年10月25日(火)~11月3日(木・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか 都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:http://2016.tiff-jp.net/ja/