【TIFF】シェッド・スキン・パパ(コンペティション)
作品紹介
挫折した映画監督の男が借金と離婚問題に悩んでいる中、老いた父は脱皮して若返っている?奇想天外な展開から、やがて香港の歴史と愛の物語が浮かび上がる感動コメディー。
舞台演出家として輝かしいキャリアを築いているロイ監督が、自らの演劇賞受賞作を映画作品として初監督した。原作は佃典彦氏による「ぬけがら」であるが、脱皮を巡るシュールさと楽しさは活かしつつ、父と息子、そして夫婦の愛の物語を通じ、香港の歴史をも概観する内容に見事に翻案している。主演は、目下3年連続で最も稼ぐ香港スターの1位に輝いているルイス・クー。2015年は実に14本の映画に出演しており、今回は挫折した映画監督を演じ、板についたダメ男っぷりを披露している。ダブル主演には、演技派の雄、フランシス・ン。コミカルなドタバタ・アクションから、シリアスな語りまで、本作の中で文字通り七変化の活躍を見せる。(TIFF公式サイトより)
クロスレビュー
富田優子/とにかくフランシス・ンが凄すぎる!度:★★★★☆
息子が若き日の父親と邂逅するファンタジーは決して目新しいものではないけれど、認知症の父親が蝉のごとく脱皮(!)するたびに若返るという設定にはぶっ飛んだ。若返っていく父親を通して、主人公がダメダメな人生を見直すとともに中国と香港の関係も透けてみえ、激動の時代を生きた世代への敬意を感じさせる。笑わせどころは多々あるのだが、白眉は世代の違う父親6人が勢揃いし、そのうえ亡くなった母親まで現れて、息子と賑々しく食卓を囲むシーン。もはや混乱の極みであったが、麺の温かみとともに幸せなひとときが心に沁みる。そして、どの世代の父親が欠けても自分はこの世に存在しなかったことの運命の不思議さを思う。父親役フランシス・ンの変幻自在っぷりには脱帽!少なくとも観客賞の可能性は十分と見た。
鈴木こより/青年を演じるフランシス・ンに違和感ゼロ度:★★★☆☆
ポップでカラフルで浮遊感と遊び心のある作品。脱皮するたびに若返る父親という設定が斬新で、見た目のインパクトも充分。そんな父が悩める息子に寄り添おうとするのだが、歳の差は縮まっても世代間のギャップはそのまんま。「最近の若者は〜」とボヤく父親もどこかトボけていて、父子2人の半生が移りゆく時代の流れとともにユーモラスに語られる。キャストも魅力的で、痴呆の老人から青年まで遡って演じきったフランシス・ンの演技は圧巻。時代を映したインテリアや食卓の風景もアジアの郷愁を帯びていてビジュアルが楽しい。ただ、全体的にフワッとした印象で核となるメッセージが掴みきれず、個人的には拍子抜け感が否めなかった。
第29回東京国際映画祭
会期:平成28年10月25日(火)~11月3日(木・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか 都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:http://2016.tiff-jp.net/ja/