【TIFF】ある理髪師の物語(コンペティション)
作品解説
素朴で貧しい村の理髪店。主人に先立たれた妻は店を畳むが、時はマルコス政権独裁下、次第に反政府活動に巻き込まれていく…。芯の強さと優しさとを兼ね備えたヒロインに魅了されずにいられない、感動のドラマ。
米アカデミー賞フィリピン代表映画は、2011年が『浄化槽の貴婦人』、2012年が『ブワカウ』であったが(いずれも同年のTIFFで上映)、前者の主演がユージン・ドミンゴ、後者の監督がジュン・ロブレス・ラナである。ドミンゴは同作で数々の演技賞を受賞し、フィリピンを代表する大女優としての地位を固めている。本作では、時に素朴で可愛らしく、時に毅然とした強さを見せ、運命を粛然と受け入れる懐の深いキャラクターを見事に演じて存在感を発揮している。脚本家としての受賞歴も多いラナ監督はストーリーテリングに定評があり、時代の荒波と闘う女性たちの姿を感動的に描ききり、自らとドミンゴに新たな代表作をもたらした。(公式サイトより)
クロスレビュー
1970年代半ばのマルコス独裁政権下の、静かだが不穏な空気に見ている側も少し緊張する。男尊女卑の風潮があるなか、亡き夫の後を継ぎ理髪師となった中年女性が、散髪するときの“しゃっしゃっ”という鋏の立てる音は、「何かがおかしい」空気を切り裂き、新しい時代を拓こうとする彼女の息吹だ。そして鋏そのものが、正しいことを行おうとする彼女自身だ。それまで男の髪しか切ってこなかった彼女が、自分の長い髪を切り落とすシーンこそ、自らの意思で彼女が変化を遂げた最後の儀式だろう。理髪師という職業を物語に巧みに取り込み、力なき弱者が“光”となりうる可能性を描いた監督の手腕に脱帽だ。
(富田優子/★★★★★)
最初は夫に言われるがまま、亡くした子供の墓参り以外、自分の意志で何かをするということがなかった女性が、夫の死後自立していく。山奥の小さな村、男尊女卑の古い社会にもそれと闘う女性たちがいたのが驚きだ。また、マルコス独裁の腐敗と圧力がここにも忍びこんでおり、若者どころか老人までもが犠牲となるのだが、ここでも女性たちが行動を起こす。理屈ではない。正しいと信じたから。ただ、子供を守りたかったから。いつの時代でも、どこの場所でも社会を変えるのは、最終的には、こうした女性の力なのかもしれない。強い意志を持ってからの主人公の顔つきが変わっていく様、その力強さに圧倒された。
(藤澤貞彦/★★★★★)
上映情報
▼TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen7
10/18 17:40 – (本編120分)
登壇ゲスト(予定): Q&A: ジュン・ロブレス・ラナ(監督/エグゼクティブ・プロデューサー/脚本)、ペルシ・インタラン(エグゼクティブ・プロデューサー)、フェルディナンド・ラプス(プロデューサー)
▼TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen6
10/21 10:30 – (本編120分)
登壇ゲスト(予定): Q&A: ジュン・ロブレス・ラナ(監督/エグゼクティブ・プロデューサー/脚本)、ペルシ・インタラン(エグゼクティブ・プロデューサー)、フェルディナンド・ラプス(プロデューサー)
第26回東京国際映画祭
期間:2013年10月17日(木)〜10月25日(金)9日間
場所:六本木ヒルズ(港区)をメイン会場に、都内の各劇場及び施設・ホールを使用
公式サイト:http://tiff.yahoo.co.jp/2013/jp/tiff/outline.php