【TIFF】ガザを飛ぶブタ ： 映画と。

（第24回東京国際映画祭コンペティション・観客賞受賞）

パレスチナ人漁師が不浄の生き物とされるブタを捕り上げてしまったことから、このドタバタ喜劇は始まる。パレスチナ人とイスラエル人がフェンス越しに共存するガザ地区という特殊な地域で、双方から拒絶されるブタの処置をめぐり、漁師が周りの人を巻き込みながら奔走するというストーリーだ。ブタを隠し持っていることがバレたら処刑されかねない世界である。途方に暮れる漁師は、ついにフェンス越しの農場で働くユダヤ女性に話しかけるのだが、そこで二人は誰にも言えない秘密の取引をしたのだった。

左から、女優のミリアム・テカイヤさんとシルヴァン・エスティバル監督

記者会見にはシルヴァン・エスティバル監督（シュワちゃん似？）とユダヤ美女役のミリアム・テカイヤさんが登場。なんとこのお二人、夫婦だったんですね〜。シルヴァン監督は初の長編作品となる本作で、ジャーナリストとして見てきた西岸の真実、双方の人々が紛争や葛藤の犠牲者であるということを、そこで暮らす人々の目線で描きたかったという。パレスチナ人漁師を演じたのは、困り顔が印象的なイスラエルの人気俳優サッソン・ガーベイ。その大胆なキャスティングについて監督は、「『迷子の警察音楽隊』がとても好きなので、漁師役はガーベイさんに演じてもらえたらと思っていました。また本作はコメディなので、イスラエル人がパレスチナ人を演じるというアイデンティテイの交換は、テーマを軽くする効果があるのではないかとも思いました。脚本を送ったところ幸運なことに引き受けてくれたのですが、彼にとってかなり勇気のいる決断だっと思います」とのこと。チュニジア出身のミリアムさんもユダヤ人を演じることに葛藤を覚えたそうだが、「女優として、世界市民としてこの役を演じることにエキサイトしました」と笑顔で当時を振り返った。

下ネタ満載のユーモアと風刺でさんざん笑ったあとに訪れる感動的でファンタジックなラストシーンには、監督の特別な想いが込められているという。「コメディ仕立てですが本当は悲しいテーマを取り扱っています。だから最後はナイスなイメージで終わらせたかった。ハンディーキャップを持つ二人のダンサーが対面して踊るシーンは、問題があっても一緒に暮らしていけるのだという双方の未来の象徴なのです」。
映画を通じて両サイドをひとつにすることが、この映画の狙いであったという監督。タブーというものに疑問を投げかけたこの作品は、人々から忌み嫌われるブタが希望の架け橋となっている。
そうそう、あの主人公のブタちゃんは・・・ピレネー山脈のふもとにある南仏の田舎で幸せに暮らしているそうだ。

オススメ度：★★★★☆
取材・文：鈴木こより

▼『ガザを飛ぶブタ』作品データ
監督：シルヴァン・エスティバル
主演：サッソン・ガーベイ、バヤ・ベラル、ミリアム・テカイア
制作：フランス＝ベルギー／2010／99分

▼第24回東京国際映画祭▼
日時：平成23年10月22日（土）～30日（日）
公式サイト：http://2011.tiff-jp.net/ja/

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