山崎バニラの活弁大絵巻2026 ~弁士25周年~

25周年、会場は大盛り上がり「ハイ、活弁」の合図で記念写真も

2月28日、山崎バニラの活弁大絵巻2026 ~弁士25周年~が、こくみん共済coopホール/スペース・ゼロにて開催された。当日は、春を思わせるポカポカ陽気、家族連れも多く、満席(584席)の大盛況だった。開演前と幕間には、山崎バニラさん演奏による幕間曲が流されたが、今回は、「どたればち/津軽甚句」の三味線による演奏が新しく加わり、25年を過ぎても、常に進化し続けるバニラさんの姿が伺われた。

「こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロにて 14 回目の活弁大絵巻、そして今年はおかげさまで弁士デビュー25 周年を迎えることができました。これまで応援してくださった皆様、まことにありがとうございます。本日初めてご来場の皆様もこれをご縁にこれからもどうぞよろしくお願いいたします。」

『活動写真ことはじめ』

(2025年/12分)
監督・脚本・イラスト・音楽・編集 山崎バニラ

最初は自作動画『活動写真ことはじめ』エジソンから始まって、日本に活動写真が入り、弁士の活躍とトーキーによる衰退、そしてそれに山崎バニラさんご自身の弁士25年の歴史に繋がっていく。初めて無声映画を観る人にもわかりやすく、以前から時々上映されていたが、今回はそれがリニューアルされ、その初披露となった。監督・脚本・イラスト・音楽・編集をすべてひとりでこなされているが、イラストが可愛らしくて本当に素敵、おっと、今回はミニバニラ(娘)さんまでアニメーションのお手伝いをされていたなんて、驚きです。「時は流れて“大学は出たけれど”活弁士になった山崎バニラは、皆様のおかげで弁士生活25周年を迎えることができました。」と、次に上映する『大学は出たけれど』にひっかける辺りもとても洒落ている。

『大学は出たけれど』

(1929年/16分)
監督 小津安二郎 
出演 高田稔、田中絹代
作品提供 株式会社マツダ映画社

前説
「続いてご覧いただくのは 1929 年、昭和4年封切りの小津安二郎監督『大学は出たけれど』です。公開時は70分の作品でしたが、本日ご覧いただきますのはマツダ映画社所蔵の16 分版です。無声映画は断片しかフィルムが保存されていない作品もたくさんあり、現代の弁士は断片ながらどう説明するかも腕の見せどころとなります。」

「監督は日本映画を世界に知らしめ、今でも世界的にたいへん評価の高い小津安二郎監督です。『大学は出たけれど』を撮ったときはまだ 26 歳。無声映画時代は映画産業自体がまだ若く、20 代の監督もたくさんいました。そして、国民的スターであった大女優の田中絹代さんが、たいへん初々しい19歳の出演作となっております。小津監督は海外の映画も研究しながら、独自の映画表現を築きました。『大学は出たけれど』作中には第二部でご覧いただきます、ハロルド・ロイドの出演作のポスターがドドンと出てきますので、活弁中にご紹介いたします。大正琴弾き語りでご覧くださいませ。」

70分が16分では、ほとんどあらすじのみで成り立っている映画なのだが、バニラさんはそのあたりを無理なく膨らまし、見事に1本の作品へと昇華させている。出演者への目配せを怠らない。主人公の野本(高田稔)が面接に行った先の、社長秘書坂本武が、社長の横でいつも笑っているのだが、そこに「うっふふっ」と何とも言えない笑い声を乗せる。これによって目立たない坂本武の存在感が俄然際立ってくる。また野本の下宿先の女将飯田蝶子なども、フィルムが失われたため1回のみの出演シーンで終わっているところを、何と、障子越しに話しかけるという形で、すなわちスクリーンには出てこないけれど、そこに存在していたという形で出演させることによって、存在感を持たせているのである。

主人公野本徹夫は、会社の面接で「社員としては雇えないけれど、受付ならいいよ」と言われ、「大学出がそんなことができるか」と会社を飛び出してしまう。「この年はかつてない不況の時代を迎えていた。大卒でも就職活動はかなり厳しくタイトルの『大学は出たけれど』は流行語にもなりました」という時代背景の解説もありがたい。面接が失敗に終わった後、彼が不貞腐れてしまうのも、そうした事情があってのことというのがわかる。息子の就職の知らせを受けて、母と婚約者の町子が故郷から揃って下宿にやってくる。そこで「会社なんて1日ぐらい休んだっていいんだから、一緒にお母さんと東京見物に行こうよ」と、就職したばかりの人が言うはずもない台詞を言う。いくら就職したと嘘をついているとはいえ、この男あまりにも呑気過ぎと思っていると、バニラさんが「徹夫の就職先が決まらない理由がわかった気がする」と、ひとことチクリ。会社に行くふりをして、野原で子供たちと1日中遊んでいれば、子供たちにも「おじさん会社に行かなくていいのかよ」と言わせて、もう1つチクリ。

やがてお金は尽きてくる。就職したというのが嘘だったことを知った妻町子はカフェの女給になる。ひょんなことからその事実を知った野本は、激しく後悔する。「押し寄せる後悔、妻へのいや自分への嫌悪、失望」翌日彼は、面接に行った会社にもう一度出向き、「受付でもなんでもやります」と、頭を下げる。社長は、元々が人物を試すために「受付」なら雇うよと言っていたのだから、すんなり就職が決まる。初出勤の日、駅まで夫を見送る妻の姿に、「誰もが人生のどこかで躓きます。すぐに立ち上がる人もいれば、少し休む人もいます。新たな一歩を踏み出す喜びはいつの世にも変わらない」最後のバニラさんの言葉がとても優しい。作品の本質をひとことで捉えていて、かつ今人生に躓いている人へのメッセージにもなっている。例え、16分しか残っていなくても、それ以上の厚みがこの映画に、確実に戻ってきていた。

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