【TIFF】玄海灘は知っている(ディスカバー亜州電影〜アジア映画史アラカルト部門):ティーチイン

プログラミング・ディレクターが語る、“韓国の怪物”キム・ギヨン作品情報・最前線

(ディスカバー亜州電影〜アジア映画史アラカルト部門)

『玄海灘は知っている』

“韓国の怪物”“狂気の巨匠”などと呼ばれた韓国の鬼才キム・ギヨン監督(1919-1998)。彼の作品は近年再評価されており、ここ10〜15年の間に作品資料の発見や発掘が行われている。東京国際映画祭(TIFF)でも彼の作品を継続的に取り上げ、大きな話題を集めている。
『玄海灘は知っている』(61)は保存状態が劣悪で音声欠落、画像欠落シーンがあるだけでなく、肝腎なラストシーンも欠落しており、上映の機会が限られていた。ところが近年、ラストシーンの映像が発見されたことで、TIFFが虫喰い部分とラストシーンを補完した修復版を制作、2009年に<アジアの風>で上映した。反響も大きくリクエストが多かったため、今回アンコール上映を決定したのだという。
映画祭4日目の10月25日、アンコール上映の後に<アジアの風>のプログラミング・ディレクター石坂健治氏が登壇し、ギヨン作品に関する新たな発見とその動向について会場のファンに報告した。

それはなんと、ギヨン監督のデビュー作『死の箱』のフィルムがアメリカで発見され、韓国ソウルに戻されたというニュースだった。そのフィルム上映会が今年の春に韓国のフィルムセンターで行われたそうだが、発見されたのが映像だけだったため、音声無しの上映会になったようだ。
石坂氏曰く、「素晴らしい作品というのは論理展開がしっかりしていて、映像だけでも良くわかるものなんですね。音無しでも内容の8割程度は理解できました。しかも非常に面白い。実はこのニュースを伝えたくて、今日のティーチインを行うことにしたんです(笑)」。

また、今年のTIFFで『死の箱』の上映を検討していたが、映像以外の資料が何もなくディテールが不完全であったため、今回は見送ったとのこと。1955年の作品で、朝鮮戦争が終わって間もない混乱期であったため、シナリオやあらすじなどの資料も残っていないという。石坂氏は「音声や脚本が発見されるのを祈りながら待ちたいと思います」と言いつつ、少しだけあらすじを語ってくれた。

▼『死の箱』あらすじ
朝鮮戦争が終わり、戦死した息子の遺骨がある村の農家に戻ってくる。息子の戦友だという帰還兵が“死の箱(骨壺)”を残された母親と妹の待つ家に届け、そのまま居候を始める。やがて帰還兵は妹に色目を使うようになるが、彼にどこか怪しさを感じている妹は警戒したままだ。
実はこの帰還兵は北朝鮮のスパイで、村の近くの森に潜伏しているゲリラの先兵であった。仲間と連絡を取り合い、時期が来たら村に攻め入ろうという計画を密かに企てているのであった。

朝鮮戦争が終わって間もない頃の生々しさを感じさせる、スパイアクション作品ということらしい。冒頭のシーンからギヨン作品らしさ全開で、『玄海灘は知っている』のラストでも印象的だった炎がここでも効果的に用いられているようだ。
近い将来、この『死の箱』がTIFFで上映されることを願いつつ、会場を後にしたのは私だけではないだろう。

取材・文:鈴木こより

▼第24回東京国際映画祭▼
日時:平成23年10月22日(土)~30日(日)
公式サイト:http://2011.tiff-jp.net/ja/

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