【TIFF】最強のふたり(コンペティション)

爽やかなラストに脱帽!一風変わったバディームービー

(第24回東京国際映画祭コンペティション部門)

映画の冒頭は、深夜の高速道路。高級車を運転する黒人青年と、助手席に座る初老の白人男性。やや暴走気味にスピードを加速していく車を、パトカーは見逃さなかった。ヤバい。男たちは共謀する。初老の男はハアハアと荒い呼吸を始め、黒人青年は瀕死の男を救急病院に運ぶところだと嘘をつく。このままだと彼は死ぬと言われた警察は慌て、「わかった。病院まで先導してやる」と告げる。放免されたふたりは大音量で音楽をかけ、勝利の余韻に浸りながら優雅にパトカーに先導されて車を滑らせていく……。

一体このふたりは何者なんだろう? 正直、車を盗んで逃走している犯罪者コンビにしか見えない。黒人青年が主犯格か? しかし、それが違うのだ。高級車は初老の男性、フィリップの正規の持ち物で、黒人青年ドリスは彼の介護人。フィリップの体は事故により首から下がマヒしており、常に介護が必要な身障者。そして、大富豪なのだ。

ここで、自分がいかに固定概念や偏見に囚われているかに気づかされる。彼らの関係はいわゆる「介護人と要介護人」ではなく、まして「主人と従業員」でもないのだ。一体彼らは何なんだろう? そんな興味を観客に抱かせながら、物語はふたりの出会いに遡る。

「介護の話」となると悲壮感が漂いそうだが、本作は全くそうではない。終始一貫してユーモアに溢れている。刑務所から出たばかりのドリスは失業保険目当てに不採用を狙って介護人の面接を受けるが、なぜかフィリップは彼を雇う。育った環境も、住む家も、聞く音楽もまるで違う、出会うはずのないふたりの化学反応。なによりドリスのあっけらかんとした言動が楽しい。障害すらジョークにしてしまう。憐みや同情、遠慮もない。一方、フィリップも人生を楽しむことを忘れない。出会いは彼らの世界を変え、やがてふたりを唯一無二の関係へと導いていくのだ。

しかしある日、ドリスが複雑な家庭環境を抱えることを知ったフィリップは言う。「もうやめにしよう。これは君の一生の仕事じゃない」。ドリスが自分にとって最高の介護人であることはわかっている。けれど、それに甘えることはなく、一歩踏み出そうとする。誰にでも人生を前向きに生き、また謳歌する権利があることを、彼自身がわかっているから。ドリスもその提案を受け入れる……。

本作は、身障者の権利とか、介護とはどうあるべきかと言うことを声高に訴える内容ではない。身障者と健常者の間にあるものを軽快に描きながらも、人間関係のもっとベーシックな部分に光を当てている。お互いの人生を尊重し、思いやること。それは、「介護人と要介護人」に限ったことではないはずだ。…そしてなにより素晴らしいのは、これが実話に基づいているということ。まったく、人生は捨てたもんじゃない。そんなことを思わせてくれる、素晴らしい映画だ。

オススメ度:★★★★★
Text by 外山 香織

▼作品情報▼
製作国:フランス 製作年:2011年
監督・脚本:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ
出演:フランソワ・クリュゼ、オマール・シー、オドレイ・フルーロ、アンヌ・ル・ニ
原題:INTOUCHABLES

▼第24回東京国際映画祭▼
日時:平成23年10月22日(土)~30日(日)
公式サイト:http://2011.tiff-jp.net/ja/

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