【TIFF】がんばっぺ フラガール！～フクシマに生きる。彼女たちのいま～
（第24回東京国際映画祭特別上映作品）
©2011「がんばっぺ フラガール！」製作委員会
映画『フラガール』（06）で誕生秘話が描かれたことでも有名な、福島県いわき市のレジャー施設「スパリゾートハワイアンズ」が、3月11日の東日本大震災をうけて、46年ぶりにフラガールたちの全国キャラバンを敢行したことは、報道等で知った方も多いだろう。本作は彼女たちを通して、10月１日のスパリゾートハワイアンズ営業再開に至る道のりを描いたドキュメンタリーである。『フラガール』で多数の映画賞を受賞した蒼井優がナレーションを、ウクレレの第一人者ジェイク・シマブクロが音楽を担当したことも大きな話題だ。
地震、津波、原発事故、風評被害により苦境に立たされるフラガールたち。それでも復興に向けて、全国へ笑顔を届けるため「フラガール 全国きずなキャラバン」に出発。彼女たちが被災地をはじめ全国各地で踊る姿は、素直に感動的だ。特に、原発事故のために福島県の方々が集団避難されている避難所への慰問には、心打たれる。ほとんどのフラガールたちも福島県出身。同郷の人同士が互いの無事を喜び、励まし合う姿に、どうしても目頭が熱くなる。
ただ本作は、フラガールたちの巡業だけを追いかけた、単純なロードムービーというわけではない。東京電力福島第一原発から約2キロの距離に実家がある、１人のダンサーの日常にも密着している。愛犬をボランティアの人たちが運営する保護センターに預けているので、時間が空けば会いに行く。千葉県に避難している家族を気遣う。彼女の日常は、原発事故がなければ違うものになっていたことだろう。
また、カメラは彼女が一時帰宅する際も同行し、その実情も収めている。野放しになった牛やダチョウの姿、彼女の家から見える原発の施設、荒れ放題の家のなかや近所の様子に、言葉を失う。なかでも仰天したのは、一時帰宅する際に着用する防護服やマスクや手袋などは、住民が費用を負担して購入したものということだ。筆者はてっきり東電が支給しているものだと考えていたので、思わず新たな憤りを覚えてしまった。同時に、彼女の家は津波被害は免れたのだから、原発事故がなければ、もしかしたら今頃は家に戻れたのかもしれない･･･などと、様々な思いにとらわれてしまう。
そのような描写があるからこそ、フラガールたちが踊ることの意義が、鮮やかに浮かび上がってくる。自分たちも苦しい立場だが、前を向いていたい――この思いに尽きる。だから、10月1日のスパリゾートハワイアンズの営業再開で披露したダンスには、万感の思いが込められていた。フラダンスは笑顔で踊るもの。彼女たちからその笑顔が消えないことを、切に願わずにはいられなかった。
ただ、営業再開に漕ぎつけたとは言え、これはゴールではなく、あくまでも“はじまり”なのだ。だからこそ、彼女たちの笑顔の下に隠されている痛みや悩みにも、私たちはずっと寄り添っていきたい。震災から7ヶ月以上が過ぎ、原発事故があることが当たり前（あるいは気にならなくなった）になりつつある今、そんな思いを新たにさせてくれた映画である。
オススメ度：★★★★★
Text by 富田優子
▼作品情報▼
製作国：日本 製作年：2011年
監督：小林正樹
出演：スパリゾートハワイアンズ・ダンシングチーム
ナレーション：蒼井優
音楽：ジェイク・シマブクロ
配給：アスミック・エース＋ジェイ・シネカノン
公式サイト：http://ganbappe.j-cqn.co.jp/
10月29日（土）全国ロードショー
▼第24回東京国際映画祭▼
日時：平成23年10月22日（土）～30日（日）
公式サイト：http://2011.tiff-jp.net/ja/
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