【TIFF_2011】「あの頃、君を追いかけた」~笑いと感傷につつまれた青春賛歌から見えるもの

(第24回東京国際映画祭 アジアの風部門)

この夏の台湾の大ヒット映画『あの頃、君を追いかけた』は、笑いと甘酸っぱい感傷に彩られた愛すべきおバカ映画だ。監督は台湾でいま大人気の作家・九把刀(ギデンズ)。自伝的小説をもとに、自らメガホンをとっている。

1990年代の台湾中部の町・彰化。落ちこぼれ高校生のコーチン(コー・チェントン)は、先生に叱られ、“お目付け役”チアイー(ミシェル・チェン。超キュート!)の前の席に座るよう言い渡される。優等生の美少女チアイーは、クラス中の男子の憧れの的。そんな彼女が、何かとコーチンの世話を焼き始め、2人の距離は急速に縮まっていく……。

遊び心溢れる映像で、ちょっと下品に、でもキラキラした青春模様がテンポよく進んでいく。それは九把刀が書くライトノベルや、ケータイ小説の如き軽快さ。気楽に観られる娯楽映画であるのだが、この作品が最後に残していくものは、圧倒的なノスタルジアである。主人公の憧れるスターが『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』等で人気を集めた懐かしのジョイ・ウォンであったり、文具店には“香港四天王”のブロマイドが並んでいたり。また、漫画「ドラゴンボール」や「スラムダンク」、アダルトコンテンツや飯島愛など、台湾で一世を風靡したメイド・イン・ジャパンの名前も盛りだくさん。90年代以降に台湾へ浸透していった日本のカルチャーの変遷から、この地の人々が我々日本人と共有してきた物の多さに改めて気付かされる。

それにしてもここ数年の台湾のヒット映画には、ノスタルジアを強く感じさせる作品が並んでいる。『海角七号-君想う、国境の南-』(08)は日本の植民地統治時代の終わりに生まれた恋物語が柱。昨年の東京国際映画祭で上映された『モンガに散る』も舞台は1980年代で、中国の影響が強大になり、台湾に変化をもたらそうとしている時期の不安な空気を切り取った。また現在台湾で大ヒット上映中の歴史大作「賽徳克・巴莱(セデック・バレ)」は、日本統治時代に起こった台湾原住民による抗日暴動「霧社事件」がテーマ。もちろん、こういった作品だけがヒットしているわけではない。『海角七号』以降、これまでアート系作品が多く興行的には伸びなかった台湾映画の人気が娯楽作品を中心に盛り返しているそうだが、いずれにしても「台湾とは?」を考える気運が充満しているように思えてならない。

来年1月に総統選を控え、対中融和路線の国民党か、独立志向の民進党かで揺れる台湾。これからどこへ向かおうとしているのか。そんな人々の思いが、自分たちの“根本”にあるものへと目を向けさせているのだろうか。

Text by:新田理恵

▼作品情報▼
監督:九把刀(デギンズ) 製作総指揮:アンジー・チャイ
出演:コー・チェントン、ミシェル・チェンほか
2011年/台湾/110分
©Sony Music Entertainment Taiwan Ltd.

▼第24回東京国際映画祭▼
日時:2011年10月22日(土)~30日(日)
公式サイト:http://2011.tiff-jp.net/ja/

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)