【TIFF】J.A.C.E/ジェイス:舞台挨拶

主演俳優アルバン・ウカズ「静寂はコミュニケーションの有効な手段」

(第24回東京国際映画祭コンペティション部門)

左からメネラオス・カラマギョーリス監督、主演俳優のアルバン・ウカズ

世界の市場を揺るがしているギリシャからショッキングな新作が届いた。1回目の上映で話題を呼び、2回目の上映は平日の午前中にもかかわらず満席となった『J.A.C.E/ジェイス』である。
風光明媚な観光地というイメージとはほど遠いギリシャのダークサイドが描かれていて、この国が経済危機に陥った原因というものを仄めかすような作品だ。来日したメネラオス・カラマギョーリス監督は、「昔からギリシャはさまざまなモノや人が集まるバルカン半島の拠点であり、現在は人身売買や臓器売買が日常のように行われている」と語る。また、それらを取り締まるべき機関と犯罪組織の癒着の噂も後を絶たないようだ。「それらの一番の餌食になってしまうのが、ジェイスのような孤児たちであり、この作品ではギリシャの真実を描きたかった」と監督は言う。

ギリシャの隣国アルバニアに暮らす少年ジェイスは、ある日、目の前で犯罪組織に父親と親戚全員を殺されてしまう。子供だったジェイスは殺されずに、人身売買・臓器売買の商品としてアテネへ連れ去られる。命からがらそこを逃げ出したジェイスは、素性を隠しながらサーカス団で象使いをしたり、ゲイバーで男娼になったりして犯罪組織から逃れるようにして生きていく。

ジェイスは劇中でたった一言しか話さない。父親と最後に交わした約束でもあったし、身を守る唯一の手段だと思っていたからだ。寡黙でミステリアスな主人公ジェイスがこの国の腐敗と闇を雄弁に語りかけてくるようで、観客は画面にぐいぐい引き込まれていく。主人公が語らない作品というのは卓越した脚本構成力と演技力が必要であるが、本作品はどちらもパーフェクトな力作で、142分という長さを感じさせないブラック・エンターテインメントに仕上がっている。青年ジェイス役で無口な男娼を演じた主演のアルバン・ウカズは、「静寂というのはコミュニケーションの有効な手段の一つであると学びました」と、いろんな方法で役作りに取り組んだことを明かした。「言葉の話せない人が出ている映画をたくさん観ましたし、24時間誰とも話さないという実験もしました。リハーサルの最中も共演者と話さないということをやっていたので、第一声ではどのような声になるのか、また何を話すのかということもわかりました」。しかしこのアルバンさん、無口な男娼と同一人物とは思えないほど饒舌で男っぽい(しかもジェームズ・ディーン風)。

本作品はTIFFでの上映がワールド・プレミアで、映画祭前夜にフィルムが到着したという撮れたてホヤホヤの新作であるが、監督曰く「すでにいくつかの配給会社からお声をかけていただいている」とのこと。今のギリシャがわかる『J.A.C.E/ジェイス』、ぜひ多くの人に観てほしい。

オススメ度:★★★★☆
取材・文:鈴木こより

▼『J.A.C.E/ジェイス』作品データ

監督:メネラオス・カラマギョーリス
出演:アルバン・ウカズ、ステファニア・グリオーティ、イエロニモス・カレツァノス、アルギリス・クサフィス、コーラ・カルヴーニ
制作:ギリシャ=ポルトガル=マケドニア・旧ユーゴスラビア=トルコ=オランダ/2011/142分

▼第24回東京国際映画祭▼
日時:平成23年10月22日(土)~30日(日)
公式サイト:http://2011.tiff-jp.net/ja/


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