【LBFF_2011】「プールサイド」はレズ・ゲイ映画の入門的作品

本作品は2011年のベルリン国際映画祭のゲイ&レズビアン映画部門(テディ賞)で大賞をとった作品だ。今や世界三大映画祭でも受賞枠が与えられるほど、一つのジャンルとして定着しつつあるこの種の映画も、日本では未だかなりマイナーと言えるだろう。レズ・ゲイ映画と聞いて、抵抗感を抱く人も多いのではないだろうか。

かくいう私も2007年にカンヌ映画祭のある視点部門で、『水の中のつぼみ』を観たときには衝撃を受けたものだ。「世界にはこんな映画があるのか!」と。とはいえ、少女同士の淡い恋心を描いたその映画には何とも言えない甘美な余韻と、抗い難い引力を感じたのだった。
『プールサイド』もそれに近い印象だ。レズ・ゲイ映画といってもさまざまであるが、本作も性的に過激な描写はなく、初心者でも比較的抵抗感なく受け入れられる作品ではないだろうか。

物語は、16歳の少年マルティンの大胆なアプローチとそれに戸惑う高校教師セバスチャンの心の移り変わりを描いている。
セバスチャンは目を怪我したという生徒マルティンを病院に連れて行く。治療の後、自宅に送り届けようとするが、「家の鍵をなくし、親とも連絡が取れない」という彼を仕方なく家に連れて帰ることに。巧みな嘘と怪しげな魅力をもつマルティンに警戒心を抱いたセバスチャンであったが・・・

“ノーマル”なセバスチャンには彼女もいるし、教員という社会的な立場もある。同性愛なんてあり得ないという感じだ。そんな彼の気持ちを一瞬で変えてしまう展開には、「そう来たか!」と唸らされてしまった。想う相手が異性であれ同性であれ「恋心の本質は同じなのね」と共感を覚えるが、想われた男性側の心理描写には思わず苦笑い。舐めるようなカメラワークと“火曜サスペンス”風な音楽が迫りくる恐怖を演出。これ以上はあえて何も言うまい。
“かかと”のどアップから始まるオープニングといい、独特なクローズアップが多めではあるが、鏡や水面の光を利用した手法は心の奥にある一面を映し出しているかのようで印象的。

さて入門編とは言ったものの、巨匠ルキノ・ヴィスコンティの『ベニスに死す』(71)はご存知の方も多いのではないだろうか。『ベニスに死す』ほどの傑作を引き合いに出すのは少々気が引けるが、昔から描かれている題材なのだ。時代は変われど、根底に流れているのは「美と愛」の讃歌である。

Text by 鈴木こより
オススメ度:★★★☆☆

▼作品情報▼
監督 : マルコ・ベルヘール
出演 : カルロス・エチェバリア、ハビエル・デ・ピエトロ、アントネラ・コスタ
原題:AUSENTE
2011年 / ドラマ / アルゼンチン / 87分/2011年ベルリン国際映画祭テディ賞


▼第8回ラテンビート映画祭2011▼
<東京>
日程:9月15日〜19日
会場:新宿バルト9
<京都>
日程:9月22日〜25日
会場:T・ジョイ京都
<横浜>
日程:10月7日〜10日
会場:横浜ブルグ13(TOCみなとみらい6階)

映画祭の詳細は、オフィシャルサイト&ブログでチェック。
オフィシャルサイト http://www.hispanicbeatfilmfestival.com/
オフィシャルブログ http://lbff.blog129.fc2.com/

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