【LBFF】THE SKIN I LIVE IN(英題)

ペドロ・アルモドバル監督の最新作は、素晴らしき“変態”映画!

※『私が、生きる肌』のタイトルで、2012年5月26日(土)TOHOシネマズシャンテ、シネマライズ他全国ロードショー

スペインのペドロ・アルモドバル監督と言えば、『ボルベール<帰郷>』『オール・アバウト・マイ・マザー』等でもそうだったが、“VIVA女性!”的な映画が多かったように思う。だが、本作を一言で言い表すと、ずばり「変態」。“変態万歳!”な映画なのである。

形成外科医のロベルト(アントニオ・バンデラス)は新種の皮膚の開発に取り組んでいるのだが、それには恐ろしい秘密があった。研究熱心であると同時に、彼の心に渦巻いていたのは、ある男への復讐だ。ロベルトとその家族の痛ましい過去が明らかにされるに従って、ロベルトの復讐心には理解できるし、同情を寄せたくなる。だから、もし、彼がその男に殺意を抱くとしても、その感情を否定することはできないだろう。だが、彼の復讐の方法は、あまりにも想像を絶している。相手を殺すのではなくて、そういうやり方があったのか・・・と、驚きを超えて、ある意味感心したくらいだ。外科医ならではの技術をフルに駆使するわけだが、だとしても、彼の復讐は変態に満ちている。

その変態っぷりのさじ加減が中途半端ではないから、すさまじいと同時に滑稽でもあり、心地いいのだろう。倫理や道徳も、もはや通用しない。アルモドバルお得意の、むせかえるような濃密な空気。また、血しぶきやベッドカバーなどの赤は官能的で美しく、観る者をアルモドバルの世界に引き込むのに一役買っている。そして、復讐が欲望に、やがて陶酔に変わるまで、容赦なく、大胆に、とことん描く。その突き詰めた世界に到達したとき、観客を待ち受けていたのは、嫌悪感ではなく、むしろ「こんな映画をよくぞつくってくれた!」という限りない感謝の念と、そんな映画と出会えたことの満足感だった。

久しぶりにスペイン映画に復帰したアントニオ・バンデラスだが、本作で「復活」と言ってもいいだろう。ここ数年は『シュレック』シリーズでの“長靴をはいた猫”(しかも声)くらいしか当たり役がなかったが、母国に戻った本作で、水を得た魚のように生き生きと変態ぶりを発揮している。また、物語の鍵を握る女性ベラ役のエレナ・アナヤも素晴らしい。彼女の完璧な美貌と肉体が、ロベルトの復讐心に複雑な変化をもたらすのだが、彼女の心の奥底が垣間見えた瞬間は、思わず戦慄が走った。

ロベルトの復讐に救いはあるのか、そしてサスペンスフルで衝撃的なクライマックスの後に迎える、ラストのおかしみは、唯一の光明となりうるのか・・・。心をわしづかみにされたような、狂おしい感覚が押し寄せ、そして、いつまでも“変態”の余韻をかみしめていたいと思うのである。あぁ、何と素晴らしき変態映画!

オススメ度:★★★★★
Text by 富田優子

▼作品情報▼
監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
出演:アントニオ・バンデラス、エレナ・アナヤ、マリサ・パレデス
製作国:スペイン
製作年:2010年
原題:LA PIEL QUE HABITO
公式サイト&予告編:http://www.lapielquehabito.com/
配給:ブロードメディア・スタジオ


▼第8回ラテンビート映画祭開催概要▼
【東京】9月15日(木)~19日(月)
会場:新宿バルト9(新宿三丁目イーストビル9階)
【京都】9月22日(木)~25日(日)
会場:T・ジョイ京都
【横浜】10月7日(金)~10日(月・祝日)
会場:横浜ブルク13(TOCみなとみらい6階)
公式サイト:http://www.hispanicbeatfilmfestival.com/
公式ブログ:http://lbff.blog129.fc2.com/


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