【三大映画祭週間】唇を閉ざせ
アレックス(フランソワ・クリュゼ)は幼なじみのマルゴ(マリー=ジョセ・クローズ)と結婚。幸せな生活を送っていたが、その矢先、マルゴが連続殺人鬼に惨殺される悲劇に見舞われる。8年後、アレックスの元に差出人不明のメールが届くが、その内容がアレックスとマルゴでしか分からないもので、彼は妻が生きているのではないか・・・という思いを強くする。同じ頃、マルゴが殺された場所で、正体不明の遺体が発見されたり、マルゴの死の直前に、彼女からある秘密を打ち明けられていた友人が殺害されるなど、不可解な事件が勃発。警察はアレックスが実はマルゴを殺害したのではないか、と疑う。そして、彼は警察だけではなく、謎の一団からも追われることに・・・。
原作は米国のミステリー作家ハーラン・コーベンの同名小説。原作の主な舞台はニューヨークだが、舞台をフランスに移し、フランスの人気俳優ギヨーム・カネが映画化した作品だ。キャラクター設定の約90%は原作を踏襲していると言ってもいい(名前等はフランス人らしいものに変更されているが)。そして、小説の醍醐味である、主人公の真相究明への執念、真実の解明に至る過程、そしてその根底にある、妻に対する夫の揺るぎない愛をきっちり描いており、原作ファンも納得の出来栄えだろう。主人公が身に覚えのない罪を被せられ逃亡するハメになる、いわゆる正統派の「巻き込まれ型サスペンス」の枠だけにとどまらず、ラブストーリーとしても見応えのある作品となっている。
サスペンスものにおける観客(もしくは読者)の最大の欲求は、当然のことながら結末を知ることだ。すなわち、犯人の正体と彼(もしくは彼女)の犯行の動機を知ること。本作ももちろん、二転三転する展開の果てに、ラストでその欲求をいかんなく満たしてくれる。
だが、それまでの過程において、特に目を引いたのが映像の見せ方だ。例えば、アレックスとマルゴが初めてキスを交わした湖畔の夕暮れ時の様子や、2人の思い出を刻んだ秘密の場所に続く道に咲き誇る花々などの美しい映像をふんだんに取り入れ、甘美な思い出を切なく盛り上げる。分けても特筆すべきは、アレックスとマルゴの結婚式とマルゴの葬式をアレックスが回想するシーン。結婚式と葬式のシーンが交互に浮かび上がり、笑顔と涙、祝福と追悼、幸せの絶頂と絶望のどん底のコントラストが引き立っている。
またアレックスは、妻が生きているかも・・・という思いに駆られ、彼女と再会するまでは警察に絶対に捕まるわけにはいかない、と弁護士の説得を無視して、決死の逃走を図る。街の雑踏を脱兎のごとく走り抜け、車の往来が激しい高速道路を渡り切り、フェンスを跳び越え、移民系の住民が行き交う市場を横切り、悪臭漂うゴミ箱のなかに身を隠す。この一連の切れ目のない流れも、緊張感とスピード感が相まって、自然と引き込まれてしまう。カネ監督は本作でセザール賞最優秀監督賞を受賞しているが、それも納得。ロマンチック度を盛り上げるところは盛り上げ、真相究明まで緊迫感を維持させるなど、映像による緩急の使い方が上手い。監督のそんなセンスも、ぜひ堪能していただきたいと思う。
もう1つ、本作のお楽しみは、フランス映画界の有名どころの俳優が多数出演していることだ。主演のフランソワ・クリューゼ、マリー=ジョセ・クローズの他に、アレックスの姉役にマリナ・ハンズ、彼女のレズビアンの“夫”役にクリスティン・スコット・トーマス(!)が配されている。その他、ナタリー・バイ、ジャン・ロシュフォール、フランソワ・ベルレアン、アンドレ・デュソリエ等の芸達者が勢揃い。全くもって贅沢な布陣で、観ている側も嬉しくなる。ついでに(?)カネ監督自身もちらっと出演しているので、どうぞお見逃しなく。
ちなみに本作は、ハリウッドでベン・アフレック監督によるリメイクが決まったという。米国の小説がフランスで映画化され、それが今度はハリウッドへ逆輸入されるということになるのだ。ハリウッド版のキャストはまだ聞こえてこないが、まずはこの「三大映画祭週間2011」の上映機会に、“本家”を鑑賞されてみたらいかがだろうか。
オススメ度:★★★★☆
Text by 富田優子
▼『唇を閉ざせ』作品情報▼
2007年セザール賞最優秀監督賞/最優秀男優賞
監督:ギヨーム・カネ
出演:フランソワ・クリュゼ、マリー=ジョセ・クローズ、クリスティン・スコット・トーマス、マリナ・ハンズ、ナタリー・バイ、ジャン・ロシュフォール、フランソワ・ベルレアン、アンドレ・デュソリエ
2006年/フランス/シネマスコープ/131分
原題:Ne le dis a Personne
英題:TELL NO ONE
© 2006 – Les Productions du Trésor – EuropaCorp – Caneo Films – M6 Films
▼「世界三大映画祭2011」開催概要▼
日時:平成23年8月13日(土)~26日(金)
場所:ヒューマントラストシネマ渋谷他(全国順次)
公式HP:http://sandaifestival.jp/
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