【三大映画祭週間】ハッピー・ゴー・ラッキー

30歳・独身女性の“天然キャラ”が炸裂!

2008年ベルリン国際映画祭銀熊賞(女優賞)

小学校の教師であるポピー・クロス(サリー・ホーキンス)は、ロンドン在住の30歳の独身女性。教師の仕事は熱心だし、アフター5はトランポリン教室やフランメンコ教室に通ったり、友人たちとバーでガールズ・トークを繰り広げたりして、楽しい生活を送っている。また、休日には車の運転を習いはじめたところだ。

本作のタイトルである“Happy-Go-Lucky”とは、「楽観的」とか「楽天的」という意味がある。これはまさに、ポピーの性格そのもの!彼女の底抜けに明るい性格が本作のキモだ。その余人の追随を許さない“天然キャラ”には、目を見張る。例えば、ポピーは本屋のイケメン店員に、どうでもいい話題をノンストップで喋り続けるが、彼はポピーに興味はないようで、無視。しかもその帰りに自転車を盗まれるが、「(自転車に)さよならを言えなかったわ・・・」なんて独り言を口にする始末で、気落ちする様子もない(もし筆者が自分の自転車を盗まれたら怒り狂うだろう)。万事この調子なのだ。

しかし、ポピーの天真爛漫ぶりが時に人をイライラさせることもある。その代表格が、車の教習所の教官スコット(エディ・マーサン)だ。教習初日、ポピーはヒールの高いブーツを履いており、彼から「次回は履いてこないように」と注意される。車の運転は人命に関わることでもあるし、改めるのが普通だろうが、当のポピーは「(ブーツを)気に入っているの」と次の教習も、またその次もそのブーツを履いてくる。しかも、ジョークを連発し、自分だけ笑い転げるようなハイテンション・トークで、スコットの苛立ちは募るばかり。しかし、そんな彼の態度にも変化が表れて・・・。

30歳の独身女性の物語と聞くと、「仕事をとるか?恋をとるか?」「結婚はどうする?」「出産はどうなる?」的なありきたりな(?)ストーリーを連想してしまいがちだ。ところが、このポピー、人生の岐路に立たされて悩んでいるわけでもなく、今後の人生に不安を抱いているわけでもない。とにかく明るく楽しく生きており、彼女のそんなハイテンションな日常が、淡々と描かれる。普通に考えると、ただの一般人の日常生活(仕事 → 習い事orバー → 自宅、の繰り返し)を映画化しても、極端にドラマチックなことが起こらない限り、映像的に面白いものになるとは思えない。しかも、ポピーの同年代の多くの女性なら悩むであろう仕事、結婚、恋愛なども、本作ではさしたる重要な要素ではなく(と言うよりポピーは悩んでいないのだ)、観客が自身を彼女に投影することは、難しいかもしれない。

だが、それでも物語として成立し、観ていて楽しくなるのは、ポピー役のサリー・ホーキンスの自然体の演技のおかげだ。確かにスコットのようにイラッとする点もあるが(「ブーツ」のくだりは特に)、次第にポピーの天然キャラに魅了されてしまう。サリーの嫌みのない演技には、ポピーの周囲の人々も、観客をも惹きつける力があり、彼女のことをもっと知りたいという気持ちにさせる。

それともう一人、陰気度100%のスコットを演じるエディ・マーサンの怪演があってこそ、サリーの好演=ポピーの天然キャラが輝きを放つ。スコットの奇妙な態度はちょっと不気味だけど、その理由が明かされたときに、観客の共感を得ることだろう。そんな個性的な人物像をつくり上げ、愛すべき作品に仕立てたマイク・リー監督の手腕もお見事!

本作は2008年の東京国際映画祭では好評を博しており、劇場公開を期待していた。だが、結局は公開に至らず、マイク・リーほどの巨匠監督の作品ですら、公開されないなんて・・・!と憤慨したものだ。だが、この三大映画祭週間2011で上映されることは、本当に幸運だ。この機会にぜひ観ていただきたい作品の1つである。

オススメ度:★★★★☆
Text by 富田優子


▼『ハッピー・ゴー・ラッキー』作品情報▼
2008年ベルリン国際映画祭銀熊賞(女優賞)
監督:マイク・リー
出演:サリー・ホーキンス、エディ・マーサン、エリオット・コーワン、アレクシス・ゼガーマン
2008年/イギリス/シネマスコープ/118分
原題:HAPPY-GO-LUCKY
© 2007 Untitled 06 Distribution Limited, Channel4 Television Corporation and UK Film Council. All Rights Reserved.


▼「三大映画祭週間2011」開催概要▼
日時:平成23年8月13日(土)~26日(金)
場所:ヒューマントラストシネマ渋谷他(全国順次)
公式HP:http://sandaifestival.jp/


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