【TIFF】サラの鍵
(第23回東京国際映画祭・コンペティション部門)
全てのコンペティション部門の作品を見ているわけではないが、この原稿を書いている時点で、本作は完成度の高さでは、賞レースの頭1つ抜け出た感がある。第2次世界大戦中、ナチス傀儡政権下のフランスで行われたユダヤ人迫害事件を調べる米国人ジャーナリスト・ジュリア(クリスティン・スコット・トーマス)が、ユダヤ人少女サラ(メリュシーヌ・マイヤンス)とその家族の悲劇の真相に辿り着く物語だ。
1942年7月、サラはフランス警察に逮捕される直前、とっさの判断で幼い弟を戸棚に隠し、鍵をかけてしまう。すぐに帰宅できると思っていたが、サラと両親は収容所に送られることになる。弟を閉じ込めてきたことが軽率な判断であったかを悔やみ、何とか家に戻って弟を助けたいという責任感が、彼女を決死の行動に駆り立てる。一方、現代のパートでは、ジュリアの夫の実家が、かつてはサラが住んでいた家であることを知り、真相究明に乗り出していく。
サラの弟はどうなったのか、そして彼女の運命は・・・?とミステリアスな展開になるのだが、本作は決してミステリーに特化したものではなく、悲しい歴史と向き合おうとする真摯な姿勢が感じられる。ジュリアがユダヤ人迫害事件を知る老婦人を取材し、非難めいた口調で「(迫害事件について)当時は何も感じなかったの?」と老婦人に問うが、彼女が「あのときはこうするしかなかった。では、どうすれば良かったのか?」と逆に問い返すシーンが印象的だ。過去を知らない(=学ばない)者が歴史を責めるのは簡単だが、当事者からすれば選択の余地はなかったのだ。現代に生きる我々に重くのしかかる。
また、サラ一家が逮捕された後、事情を知らないとはいえ、彼女の家に住むことになったジュリアの夫の祖父と父も、悲劇を目の当たりにして打ちのめされ、せめてもの贖罪を果たそうとする。だが、父はことの次第の大きさに、今でもおののいている。迫害事件は決して一過性のものではなく、現代に生きている人々の心にも暗い影を落としていることが描かれ、戦争は終わっていないことを痛感させられる。
過去と現在の橋渡し役と言えるジュリアに扮するクリスティン・スコット・トーマスは『ずっとあなたを愛してる』(08)に引き続き、フランス映画での主演だが、前作並みの好演で物語に深みを与えていて、「さすがだ・・・」と唸らせる。
だが、何と言ってもサラを演じた子役メリュシーヌ・マイヤンスが問答無用に素晴らしい。メリュシーヌのアイスブルーの瞳からは、何としてでも弟を助けたいという子供なりの責任感が溢れていて、その真剣さに心打たれる。あの瞳に見つめられて心動かない人がいたら、お目にかかりたいくらいだ。また、父母と引き離されるシーンや、収容所の看守に必死に懇願するシーンなども体当たりの演技で、涙がもう止まらなかった。彼女の熱演が本作の悲劇性を高めることに大いに貢献しており、私見ではあるが、メリュシーヌが今回のTIFFの最優秀女優賞に相応しいのではないか・・・と思う。ぜひ10月31日(日)の受賞発表を期待したい。
Text by:富田優子
オススメ度:★★★★★
製作国:フランス 製作年:2010年
監督・脚本:ジル・パケ=ブレネール
脚本:セルジュ・ジョンクール
原作:タチアナ・ド・ロネ「サラの鍵」
キャスト:クリスティン・スコット・トーマス、メリュシーヌ・マイヤンス、ニエル・アレストラップ、エイダン・クイン
第23回東京国際映画祭公式サイト::http://www.tiff-jp.net/ja/
2010年10月30日
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2011年8月19日
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