【三大映画祭週間2011】「我らが愛にゆれる時」幼き命を救うために、2組の夫婦が出した究極の結論とは…
2008年ベルリン国際映画祭銀熊賞(脚本賞)
骨髄移植が必要と告げられた幼い娘のために、前の夫シアオ・ルーとの子どもを作ろうと決意するメイ・チュー。とはいえ、お互い再婚した身。それぞれのパートナーから反対されるが、なんとか同意を得て人工授精を試みる。しかし、結果はあえなく失敗。焦るメイ・チューは、直接性交渉による妊娠に望みをかけようとする…。
母親とはこういうものなのだろうか。心を決めたメイ・チューの行動にはブレがない。後に生まれてくるだろう命のことも考えない。ただ、今ある命を救うため―。映画は、それを良いとも悪いとも断じない。生命倫理やモラルを問うところに主眼を置いていないように感じられる。
むしろこの映画が生々しく描いているのは、身をよじられるような決断を迫られる人間の姿だ。母のメイ・チューと現在の夫ラオ・シエ。父のシアオ・ルーと現在の妻トン・ファン。特に、ラオ・シエ、トン・ファンの姿が、父母とは異なる苦しみを背負い、彼らと対になる、まるで鏡のような描かれ方をしている。観客の共感を誘うのは彼らの苦悩ではないだろうか。自分の夫や妻が、他人との間に子供をもうける。それだけでも耐えがたい辛さであるのに、さらに中国特有の事情が絡む。いわゆる「ひとりっ子政策」だ。メイ・チューがもう一人子どもを産むということは、トン・ファン、ラオ・シエにとっては血の繋がった自分の子どもを諦めることになりかねない。離婚して別な伴侶を得るという選択肢も、彼らには残されているのだが…。
自分の子どもを残したいという人間の本能、愛する人とともに生きたいという人間の情が4人の中で渦巻いていく。世の中には、当然のように両方を達成できる人間がいるのに、自分たちはできない。そのとき、彼らはどうするのか。運命を呪い自暴自棄になるのか、その果てに何かを決断するのか。何を受け入れ、何を捨てるのか。そして、その決断は幸せをもたらすのだろうか…?センシティブでセクシャルな題材でありながら、映画の根本にあるテーマは、もっと普遍的なもののように感じられる。
原題は「左右」。左に進んでも、右に進んでも、何が正解なのかはわからない。ただ、それぞれの選択の先に未来があり、その道を責任を持って歩んでいかなければならない。例え何かを一生背負うことになっても。ラストに見せる、メイ・チューの表情が何とも言えない。
オススメ度 ★★★☆☆
Text by 外山 香織
監督:ワン・シャオシュアイ
出演:リウ・ウェイウェイ、チャン・ジャーイー、ユー・ナン、チェン・タイシェン
2008年/中国/115分
原題:左右
英題:IN LOVE WE TRUST
▼「三大映画祭週間2011」開催概要
日時:平成23年8月13日(土)~26日(金)
場所:ヒューマントラストシネマ渋谷他(全国順次)
公式HP:http://sandaifestival.jp/
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