【TIFF】サラの鍵(コンペティション)

観客賞、最優秀監督賞受賞。観る者の心を掴んだサラの一念

(第23回東京国際映画祭コンペティション作品)

1942年、ナチスドイツの傀儡政権下にあったフランスで、フランス警察によるユダヤ人弾圧が行われた。10歳の少女サラは、捜索に来た警察の目をごまかそうと弟ミシェルをアパートの納戸の中に隠し鍵を掛ける。しかし、その直後サラは鍵を持ったまま両親とともに収容所へ移送されてしまう…。映画は、サラの物語と、60年後にサラのアパートに住むことになったのをきっかけに、彼女の消息を追うことになったジャーナリスト・ジュリアの物語という、2つの時代を交錯させながら進む。

サラが弟を救出できるのかという一点で、観る者は心を掴まれる。サラの「一刻も早くアパートに戻りたい」という心情が迫り、正直気分が悪くなるほど追いつめられていくほどだ。収容所へ送られ、両親と離ればなれになったサラがそれでも心を強く持っていられたのは、悲しい哉この一念があったからに他ならない。収容所を脱走した彼女はホロコーストの犠牲にならずに済むものの、待ち受けていた悲劇はとてつもなく残酷なもので、周囲の人間をも否応がなしに巻き込んでいく。戦争は終わっても悲劇は続くのだ。

映画の後半では、その後のサラの生涯がジュリアの調査によって徐々に明らかになっていく。その過程でジュリアは様々な人々と遭遇するのだが、特筆すべきは、ジュリアが、調査の結果突き止めたサラの息子ウイリアムと話をする場面だ。母親がユダヤ人であることを知らなかった彼は、そのことを告げられた瞬間、強烈な拒否反応をジュリアに示すのである。時代が下がっても、その事実はいまだに受け入れがたいことなのだということを、突き付けられるのだ。ジュリアはショックを受け、自分の行動が傲慢だったと反省し、それ以降サラの調査をやめてしまう。真実を明らかにし、戦争の悲惨さを後世に伝えていかねばならないと我々は考える。しかし、戦争やユダヤ人迫害が、どれほど個人の人生に影を落とし、触れられたくない過去として存在しうるかということも、この映画は描いている。

サラの時代の描写だけでもドラマとしては成り立つだろう。しかし、ジュリアの時代を並行して描くことで、過去の負の遺産を伝えながら、長く続く人間たちの苦しみと心の再生につなげていることは救いだ。それにしても、サラの悲しい瞳が、私の心には強く焼き付いている。

Text by 外山 香織

製作国:フランス 製作年:2010年
監督・脚本:ジル・パケ=プレネール
原作:タチアナ・ド・ロネ
出演:クリスティン・スコット・トーマス、メリュシーヌ・マイヤンス、ニエル・アレストラップ、エイダン・クイン

©Hugo Films

第23回東京国際映画祭公式サイト:http://www.tiff-jp.net/ja/

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