【三大映画祭週間2011】「終わりなき叫び」父親と息子の間にある独特の空気を描く
2010年カンヌ国際映画祭審査員賞受賞
「どんなに仲のいい父親と息子でも、その間には形容しがたい緊張感のようなものがあるのだな」と、思っていた。母と娘の間にはない独特の空気。本作はそれを正面から捉え、言葉にできない双方の想いや潜在下の意識をあぶり出した作品だと思う。アフリカの乾いた大地を舞台に、男同士の生々しい感情が描き出される。
アフリカのチャドにある高級ホテル。そこでプールの監視員をしている父と息子の潜水競争で物語は始まる。どちらがより長く潜っていられるか。何気なくみえるけれど、二人の関係を表す象徴的なシーンだ。20歳になった息子からは、かつて偉大な水泳選手だった父親に対する尊敬の念と、一方でそれを超えたいという想いが伝わってくる。
その頃、チャドでは内戦が激化していた。それでも二人が勤めるホテルは裕福な外国人が滞在するような、安全な場所であった。しかしある日、オーナーが中国人に変わり、従業員の多くはリストラされることになる。父親はリストラは免れたものの、生きがいだったプールでの仕事を外される。プールの監視員に自分ではなく息子が選ばれたことで、思いがけず「老いた自分」を自覚することになり、ショックで塞ぎ込んでしまう。
さらに内戦の混乱は激しくなり、追いつめられた父親はついに、後悔してもしきれない衝撃の行動にでてしまう。本能的な衝動とも思えるその行動は、女の私にはもはや不可解で戦慄を覚えるものだった。
内戦の最中の話だが戦闘のシーンは無く、登場人物の心の機微が丁寧に描かれている。隣人の言動が不気味な雰囲気を醸し、TVニュースが「武器を売らないで」という国際社会へのメッセージを伝える。見せ方はさりげないが、どれも印象的だ。
チャド出身のマハマト=サレ・ハルーン監督(1961-)は、本作でカンヌ国際映画祭審査委員賞(2010)を受賞。鋭い観察眼と卓越した表現力は、フランスでジャーナリズム論を学び、記者として活動していたというキャリアで培ったのだろう。静と動、音や色づかいなど全篇を通してコントラストが効いており、映画への美学が隅々まで感じられる。とりわけラストシーンは詩的であり、絵画のようだ。次回作にも期待が高まる。
おススメ度:★★★★☆
Text by 鈴木こより
『終わりなき叫び』
2010年カンヌ国際映画祭審査員賞受賞
監督・脚本:マハマト=サレ・ハルーン
出演:ユースフ・ジャオロ、ディオク・コマ、エミル=アボソロ・ムボ
2010年/フランス・ベルギー・チャド/シネマスコープ/92分
原題:Un Homme qui Crie
英題:A SCREAMING MAN
▼「三大映画祭週間2011」開催概要
日時:平成23年8月13日(土)~26日(金)
場所:ヒューマントラストシネマ渋谷他(全国順次)
公式HP:http://sandaifestival.jp/
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