【フランス映画祭】美しき棘

レア・セドゥのアンニュイな存在感に魅せられる

フランス映画界注目の若手女優レア・セドゥ。『イングロリアス・バスターズ』『ロビン・フッド』などのハリウッド大作に出演していたことはご存じの方も多いだろう。また、今年のカンヌ国際映画祭オープニング作品のウディ・アレン監督作『Midnight In Paris(原題)』、トム・クルーズ主演『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』への出演と、その活躍ぶりは目覚ましい(よくよく考えれば、レアは『ロビン・フッド』『Midnight In Paris』と自身の出演作が2年連続でカンヌのオープニングを飾っていることになる)。

だがその一方で、レアの主演作は日本で劇場公開されていない。『美しいひと』(一昨年前のフランス映画祭上映作品)、『幻の薔薇』(昨年の東京フィルメックス特別招待作品)などは、各映画祭で好評を博したというのに、公開には至っていない。そしてこの、彼女の新たな主演作『美しき棘』も現時点での配給は未定。なぜレアがこのようなひどい仕打ち(?)を受けるのか納得しがたいが、本作もこのまま劇場公開されないのは、あまりに勿体ない作品だ。

レアが演じるのは、母親を亡くした17歳の少女・プリューデンス。父親は海外赴任中、姉は家に寄りつかず、孤独感を募らせていく。友人との間にも違和感が覚え、自分の居場所を求めるうちに、違法のバイク・レースの世界に惹きこまれていく。そこは男ばかりの、危険や死と隣り合わせの世界。だが、そこでも自分の立ち位置を見出すことができない。プリューデンスの言動は支離滅裂なところもあり、常識的に彼女を俯瞰すれば、「手のかかる、生意気な小娘」と腹立たしく思うことになるのだろう。

しかし、プリューデンスのちぐはくな言動が本作のキモだ。愛する母親の死に対する悲しみ、募る孤独感、少女と女性の間で揺れ動く思春期特有のモヤモヤ感・・・。いろいろな感情がないまぜになり、自分でも自分の感情をどう処理すればいいのか分からなくなってしまう。自分が何をしているのか、自分自身でもよく分からないという経験は、程度の差こそあれ、多くの人は経験しているのではないだろうか。だから、プリューデンスを簡単に突き放すことはできず、複雑な思いで見守ってしまう。

プリューデンスはじめ、本作の登場人物のセリフはそう多いわけではない。そして表情も情感豊かに、めまぐるしく変化するわけではない。プリューデンスに扮するレアは、ほぼ全編通して仏頂面だ。仏頂面で多くの感情を表現するのは、難しいことだと思う。一歩間違えれば表情が乏しいと捉えられ、下手くそな演技という印象を与えかねない。だが、彼女は、そんな複雑な心の動きを、自身の存在感や眼差しで、何をしでかすか分からない脆さを見事に表現。そんな彼女に惹きこまれて、最初から最後まで目を離すことができなかった。

本作はレベッカ・ズロトヴスキ監督の長編処女作品。本作における彼女の最大の功績は、レアを主演に抜擢したことだろう。レア独特のアンニュイな魅力が静かに炸裂し、本作の不穏な空気とマッチし、映画を支配している。レアであればこそ、本作は成功したと言っても過言ではないだろう。彼女の存在感を隅から隅まで(ヌード含む)堪能できる一作である。

レベッカ・ズロトヴスキ監督(右)と共同脚本のクリストフ・ムラさん(写真は6月23日の映画祭オープニング・セレモニーより)

(追記)
本作の上映後、レベッカ・ズロトヴスキ監督(超美人!)と共同脚本のクリストフ・ムラさん(超イケメン!)が観客のQ&Aに登壇。あまりの美男美女コンビの登場に、会場中が息をのんだように感じたのは、私だけだろうか。観客からの「フランソワーズ・サガンとの比較や影響」についての質問には、よほど嬉しかったのか、監督は投げキッス、ムラさんは「グッジョブ!」とばかりに親指グーで応え、会場を湧かせた。監督の次回作は何と、フランスの原発の最前線で働く男たちの愛がテーマとのこと。次回作にも期待が高まる。ぜひとも次回?次々回?のフランス映画祭で上映していただきたい。

オススメ度:★★★☆☆
文:富田優子/写真提供:鈴木こより

フランス/2010年/80分
原題:”Belle épine”
監督:レベッカ・ズロトヴスキ
出演:レア・セドゥ、アナイス・ドゥムースティエ
(C)Shelby Duncan


【フランス映画祭2011】 6月23日(木)~26日(日)
有楽町朝日ホール/TOHOシネマズ日劇にて開催
クロード・シャブロル特集ほか、特別イベントや写真展も開催予定
チケット情報やスケジュールなど、詳細は↓でご確認ください
公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2011/
お問い合わせ:ハローダイヤル 050-5541-8600 (8:00~22:00)


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