【フランス映画祭】消えたシモン・ヴェルネール

結局噂話のほうが真実より面白い

シモン失踪(ネタバレあり。未見の方はご注意ください)
これは、ハイスクールに通うシモン・ヴェルネールが失踪してから発見されるまでの物語。冒頭、パーティーに集まっていた彼のクラスメートたちが、森の茂みの中に死体が横たわっているのを発見、その2週間前へと物語は遡っていく。彼が行方不明になったその後数日間のうちには、次々と生徒が行方不明になるという事件も起こっていた。女生徒レティシアが、ジャン=バティスト(ラビエ)が…一体ハイスクールで何があったのか。映画はその真実を徐々に明らかにしていく。

 この作品のタッチは、まるでガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』のようである。ひとりひとりの生徒に焦点を当て、時間軸に沿ってそれぞれの立場からの共通体験を辿っていく。すると、同じ出来事も、まるで別のことのように見えてくるという構造がよく似ている。

 ただしこの作品は、スタイルを『エレファント』から借りただけで、中身は、まるで違うテイストの作品であることをお断りしておきたい。『エレファント』は、これから起こる悲劇が最初に明らかにされており、そこに至るまでの生徒たちそれぞれの生活や人生を、ドキュメンタリー・タッチで描いていたのに対して、この作品は、あくまでミステリーの部分に主眼が置かれている。言いかえれば、『エレファント』のセリフが、よりリアルな高校生の姿を描くと言う目的のために、出演者たちの実人生を取り入れ、自由に喋らせていたのに対し、本作はセリフがきっちりとパズルのように組み込まれおり、そのひとつひとつが後に意味をもつように仕向けられているのである。そういう意味では、断片的な証言を得ながら、段々事件の核心部分に迫っていくミステリーに近い形と言えよう。ただ、探偵が存在せず、証言という形式を取っていないだけである。

 ポイントは、一番最初に描かれるジェレミーの章が、常に物語の周辺にいながらも、一番肝心なときには足を骨折していたため、結局のところ何も見ていない人物だったというところにある。一番情報が集まってくる場所にいながら、実は何もわかっていないこの人物の視点によって、観客の目は完全に曇らせられてしまったというわけだ。

事件についての噂話は、どれも衝撃的で、どこか真実らしさも秘めている。物理教師とシモンが教室でヘンなことをしていたという噂。サッカーのコーチが警察に呼ばれたという話。シモンが失踪する前日、サッカーコーチに何か手紙のようなものを渡していたのだが、彼がコーチを脅迫していたのではないかという噂。物理教師の息子でクラスメートのジャン・バティストの失踪は、父親である物理教師の秘密を彼が知ったことによるものではないかなどと、さまざまな憶測が出てくる。
そのひとつひとつについての真実が、次第に事件の核心に近い人物に焦点が与えられることによって、明らかになっていく。ジェレミー、アリス、クララ、レティシア、ジャン=バティスト(ラビエ)、シモンへと。そうした中でわかってくるのは、自分の目で目撃して、もっともらしく思えていたことが、どれほど真実からかけ離れているかということだ。

所詮人間の目というものは、そこで起こっていることのすべてを見るなどということは不可能であり、その一部分を見て、あとの全体像は想像で穴埋めしているものなのである。その想像というのは、自分の経験や知識から導き出されるものであり、それゆえにそれは決して公平なものなどではなく、独断や偏見が含まれているものなのだ。この作品を観ていると、噂や風評がどうして湧きあがって、なぜ真実味をもって広がっていくのか。その過程が見えてくる。人の知りたいという欲求、知らないことに対しての不安、それらが不必要に想像力の枠を広げてしまう。

しかしながら、徐々に事件の核心に近い人物へと物語の焦点が当たり、噂の真相が明らかになるにつれて観客は、ホッとするのと同時になんだか拍子抜した気分を味わうことになるかもしれない。なんだ、こんなことだったのかと。ミステリー小説だったら、まったくの落第である。けれども、この結末にガッカリする心理というのは、人間のサガなのである。監督はそれがわかっていて、意図的に結末を考えている。「所詮人なんてものは、つまらない真実より、面白い噂話のほうが好きなもの。週刊誌のゴシップ記事なんて…と思っているあなただって、この映画の噂話は真実より面白かったでしょ。」監督のこんな声が今にも聴こえてきそうである。「ゴシップなんてくだらない」と口では言っていても、心の奥底はそうではないことを私たちは自覚しなくてはならないのである。せめて風評だけは流さないようにしたいものだ。

Text by 藤澤 貞彦
オススメ度★★★★☆

監督:ファブリス・ゴベール
出演:ジュール・ペリシエ、アナ・ジラルド、イヴァン・タッサン
2010年/フランス/93分
原題:Simon Werner a disparu

★カンヌ国際映画祭2010ある視点部門審査員特別賞他3部門ノミネート
★セザール賞2011最優秀初監督作品賞ノミネート



【フランス映画祭2011】 6月23日(木)~26日(日)
有楽町朝日ホール/TOHOシネマズ日劇にて開催
クロード・シャブロル特集ほか、特別イベントや写真展も開催
チケット情報やスケジュールなど、詳細は↓でご確認ください
公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2011/

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