【TNLF】エンジェル・オブ・ザ・ユニバース

なぜ彼は『街の灯』に絶望したのか…

エンジェル・オブ・ザ・ユニバースフリドリック・トール・フリドリクソン監督作品にしては、珍しく憂鬱さが色濃く覆っている映画だ。もっとも、彼らしいのは、この作品でも、チャップリンの『街の灯』がストーリーの重要なターニング・ポイントとなっているところである。(今回上映の作品でも『精霊の島』は、チャップリンの物真似が重要な意味を持っているし、『マンマ・ゴーゴー』でも『黄金狂時代』が出てくる)

主人公のポールは画家になるのが夢。詩人のように詩を唄い、おかしな話ばかりして妹を笑わせている。多少エキセントリックなところはあるが、陽気な普通の青年である。広い屋敷に住むお嬢様が彼の恋人だ。彼の夢は、彼女と世界を旅すること。親友の警告も上の空に、純粋にそんな夢を信じていた。しかし、所詮は身分違いの恋、あっけなく破綻してしまう。部屋に閉じこもり、家族に八つ当たりしと、ここまではありふれた失恋話であったのだが、『街の灯』を一緒に観に行く約束を反故にされたことで、彼の精神は一気に崩れ去り、病院に入院することになる。

なぜ『街の灯』か。「よりによってあんなに泣ける映画をひとりで観なきゃならないなんて」とポールは言う。ところがそれだけではない。『街の灯』を観るとそれがわかる。
チャップリンが手術代を出し、目が見えるようになっただけでなく、今や花屋を開けるまでになった盲目の花売り娘。その店の前で、チャーリーは、彼女が自分ではなく、億万長者の青年に恋しているのを目の当たりにした上、子供たちにからかわれるさまを見られてしまう。それを哀れに思った娘が一輪の花を彼に差し出す。その時のチャーリーの惨めな気持ちが自身の姿と重なってしまったのである。

まさか憐れなルンペンが、自分の目を治してくれたとは、あの花売り娘は思いも寄らなかっただろう。お店に来た億万長者の青年が、目を治してくれたのだと思い込んでしまう。本作でも、精神病院仲間が「友達の弔い」と称して高級レストランで無銭飲食をするのだが、お育ちのいい一人の患者の完璧な身なりと振る舞いのため、給仕長がだまされてしまうのも同じ心理によるものだ。人はいかに見かけで物事を判断しているのか。それどころか、信じたいものだけを見ようとしているし、真実を見て見ぬふりをしていたりもする。そう考えると、「世界はみんな分裂症だ!」分裂症のポールの言葉も必ずしも的外れではない。

物語の後半、精神病患者にも自立をさせようという政府の施策により、病院の職員が減らされると同時に、彼らをアパートに住まわせ、そこから病院に通わせるということが行われ、ポールも退院する。しかし、生活保護を受けさせ、一人狭い殺風景なアパートに住まわせること、精神状態が不安定な人を高層アパートに住まわせるという危険な行為が、本当に自立なのか。政府はわかっているはずである。ただ、自分の都合で綺麗事を言っているだけなのである。これが精神分裂でなくて、なんなのか。私たちが住んでいる世界とは、そういうところだ。そう考えると、死を選び鳩になって広い空へと飛んで行ったポールは、私たちが思うほどには、不幸ではなかったのかもしれないと思えてくるのである。これは、そんな皮肉も入った作品だ。

Text by藤澤 貞彦
オススメ度★★★★☆



▼作品情報
【原題】Englar alheimsins/英題:Angels of the Universe
【監督】フリドリック・トール・フリドリクソン
【出演】イングヴァール・エッゲルト・シグルズソン/バルタザル・コルマキュル/
    ヒルミル・スナイル・グズナソン
【制作】2000年/ アイスランド/ノルウェー/ドイツ/スウェーデン/デンマーク/100分


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