【TNLF】シンプル・シモン

アスペルガー症候群、シモンが見る世界の姿

2012年02月13日（月）

宇宙空間にぽっかり浮かぶ青い地球、その周りを回っているドラム缶型の人工衛星。あれっ、これってSF映画だっけ。そんな意表を突くファーストーンである。これはこの映画の主人公で、アスペルガー症候群のシモンがいる世界だ。宇宙船に閉じこもってひとりフワフワと宇宙空間を漂うこと、それが彼には、一番落ち着ける世界なのだ。なぜならそこは、宇宙の法則によって秩序が完璧に保たれた、ひとりだけの世界だからだ。それ故に外界で何かが起こる度に、彼はこの宇宙空間、いやドラム缶の中に入り込んでしまうのである。
アスペルガー症候群の人の気持ちが伝わってくる、秀逸なファースト・シーンだ。

アスペルガー症候群とは何か。人と触れるのが大の苦手。それと、人の気持ちがわかりにくい。シモンの場合は、悲しい顔、嬉しい顔など説明書き付きの丸書いてチョン式の顔のサンプルを壁に貼って、理解の足しにしている。また、時間通りに行動しないと、混乱する。それ故にシモンは、一緒に暮らすお兄さんサムの恋人フリーダがシャワー中であっても、時間がくればお構いなしにズカズカと入り込んでしまう。彼の生活は、曜日によって決まったメニューを決まった時間に食べること、毎朝同じ時間にサムとミニトレーラ付き原付に乗って清掃会社に通勤することで、秩序が保たれている。

けれども、地球上の生活は宇宙空間とはわけが違う。宇宙の法則どころかカオスの連続だ。人間自体が不条理な生物なのだから当然である。寝坊することだってあるし、原付も故障する。サムとフリーダだって恋人らしくベタベタしたい気分の日だってある。それが耐えられないシモンと、彼に合わせることに苦痛を感じるフリーダはいつしか対立、彼女は家を出て行ってしまう。その時からシモンによるサムのための新しい恋人探しが始まるのだった…。

恋人に逃げられて落ち込んでからのサムの態度が興味深い。というのも、心配して触れようとしたシモンの腕を、「触るな」と言ってサムが突き飛ばす時、アスペルガー症候群のシモンと健常者のはずのサムが逆転しているのである。確かに、誰にだって落ち込んで誰にも会いたくない時はあるはずだし、あるいは、平時でもおかしな癖のひとつやふたつは持っているものだ。（例えば夏目漱石は落ち着かない時、鼻毛を抜いて原稿用紙に埋め込むという癖があったそうである。こんなのは、ドラム缶に入るよりもよっぽどわかりにくい）そう考えると、アスペルガー症候群も理解できるような気がするのである。彼らと健常者の間は、その表現においては違いがあるにしても、実は地続きなのではないかと。

確かに、現実はそんなに甘いものではないとは思う。私たちが彼らを理解しにくいのと同じように、アスペルガー症候群のシモンから見た私たちも理解しがたい存在なのだから。ただ、お互いが地続きであるならば、理解しあえるポイントはどこかにあるはずだし、そう感じさせることで、この作品は、アスペルガー症候群についての偏見を取り去ってくれるのである。ぜひ多くの人に観ていただきたい作品だ。

Text by藤澤　貞彦

オススメ度★★★★☆

▼作品情報
【原題】I rymden finns inga känslor/英題：Simple Simon
【監督・脚本】アンドレアス・エーマン
【脚本・製作】ヨナタン・ショーベリ
【出演】ビル・スカーシュゴード/マッティン・ヴァルストレム
セシリア・フォシュ/ソフィ・ハミルトン
2010年/スウェーデン/83分

トーキョーノーザンライツフェスティバル公式サイトにて、筆者によるレポートも公開中です。作品の記事と併せてぜひご覧ください。↓

☆『シンプル・シモン』上映記念シンポジウム第１部　講演「障害者の自立と北欧社会～スウェーデンを視察して～」
☆『シンプル・シモン』上映記念シンポジウム第２部　「映画が教えてくれること：アスペルガー症候群」

▼トーキョーノーザンライツフェスティバル
２０１２年２月１１日(土)から２月１７日(金)渋谷ユーロスペースにて開催
今年も、内容盛りだくさん、魅力いっぱいの「トーキョーノーザンライツフェスティバル」スケジュールの詳細、イベント、最新ニュースについては、下記公式サイトでぜひご確認ください。
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