【TNLF】『魔女』:柳下美恵さんトークショー

魔女12012年2月12日、ユーロスペースにて『魔女』(1922年・サイレント)が柳下美恵氏のピアノ伴奏付きで上映された。上映後には、柳下美恵氏(サイレント映画ピアニスト)と、まつかわゆま氏(シネマアナリスト)によるトークショーも行われ、立ち見も出る大盛況となった。ピアノ伴奏の秘訣から、『魔女』製作時の時代背景、作品の魅力、ベンヤミン・クリステンセン監督の秘話まで、話題は次々と広がっていった。

( 2/16(木)14:00より上映の『魔女』 / 柳下美恵さんの生伴奏付の上映が急遽決定しました。)



【映画鑑賞記】
『魔女』は、16世紀、17世紀の魔女狩り裁判の記録を徹底的に調べて作った作品。映画史の本には、世界映画史上でももっともユニークな作品とも紹介される作品である。何がユニークか。まるで教育映画みたいなのである。当時のキリスト教の考え方から始まり、悪魔に対する民衆の考え方、魔女裁判の歴史、拷問道具など、文献を示しながら解説するというスタイルなのだ。それにも関らずこの作品が魅力的なのは、普通この手の映画では、おざなりにされがちな再現フィルムの部分が、異様に凝っているからなのである。まるで絵の中から抜け出てきたみたいな悪魔の姿、魔女の家の小道具、中世の街の美術。おぞましいながらも、ある種の美が、倒錯的とも言える美がそこにあるのである。しかも、モノクロ、サイレントのフィルムなので、不気味さがより際立っている。いかにも真面目に、学者の講義みたいな姿勢で作っているのに…というこのアンバランス、これがこの作品の魅力なのである。

魔女今回は、この作品を柳下美恵氏の生の演奏で観られたということが、何より幸福であった。この作品の音楽、一見教育映画風なので、怪奇映画調の音楽にしたとしたら、不真面目にも思えたことだろう。かといって、暗いあの時代の雰囲気は出さなくてはならないのだからきっと難しかったに違いない。そのさじ加減が絶妙なのである。また、ピッタリと画面に演奏がはまり込んでいたために、私などは、いつしか生演奏を聴いていることを忘れてしまったほどであった。それは、文楽の舞台で人形遣いの姿が、スーッと消えいってしまったかのように感じる瞬間と似ていると言っていいかもしれない。観客にとっても、映画にとっても、誠に幸福な時間だったと言えよう。



【トークショー】
2時間近い生演奏、さぞお疲れのはずなのに、開口一番柳下美恵氏の口から出てきた言葉は「みなさんもお疲れになったのではないですか。研究書のような内容で」だった。

◆サイレント映画ピアノ伴奏の秘訣とは…

柳下美恵さん3

柳下美恵さん


まつかわゆま氏(以下M)「柳下さんは、この作品とは縁が深いのだそうですね」

柳下美恵氏(以下Y)「この仕事を始めた頃に、フィルムコレクターの方から何本かフィルムを譲り受けて、その中の1本がこの『魔女』だったんです。何年か前に見つかったオリジナル版と違って、私の持っているのは完全版ではないのですが」

M「DVDが出ているのですが。その伴奏もやってらっしゃるんですが、それとは今日の上映はバージョンが違うんですね」

Y「楽器も違うので即興でやったんですけれども、なかなか苦戦しました」

M「譜面に起こしたりはしないのですか」

Y「私はそういう努力はしたことないんです。全部スコアを書きあげてっていうのはやったことなくて、モチーフを作ってそれを膨らませてってことをやっているんです。サイレント映画の時代には、必ず生の音楽が付いていたのですが、監督指定のオリジナルのスコアがあるのは稀で、それで既成のクラシック音楽を演奏したり、即興で演奏したりということがほとんどでした。即興っていっても今みたいに何回も観られるわけではないので、試写で2,3回観て、それで覚えてやるっていうことしかなかったですね」

M「観ながらっていうのは無理ですものね」

Y「でも私は、外国の映画祭に行った時何回かやっていますね。何を頼りにして弾くかっていうと、カタログのあらすじから大体の内容を想像して、後はその場で観ながら弾くんですね」

M「観ながら弾く場合に、つい観こんじゃうってことはないんですか」

Y「いいなぁとは思いますけれど、次のことを考えないといけないですから…次の場面を想像しているんですよ」

◆『魔女』が製作された時代とは…

まつかわゆまさん2

まつかわゆまさん


M「『魔女』なのですが、DVDの表書きにはホラーのバイブルとか書いてあるんですけれども、そう思って観ると意外とお勉強的という不思議な作品ですよね」

Y「監督は社会性のある監督で、本当に色々な角度から研究して魔女というもののあり方みたいのを説いているのですけれども、ひとつひとつ画面構成が美しく、でも結構しつこい」

M「ここは大事だから、もう一回見せるからよく見といてね、みたいなね。今のご時世、この後はこういうことになるかもしれないみたいな社会性といったものもあったような」

Y「20年代にこういう映画を作っていたのに、ナチスのあんな暗い時代になっていっちゃてねぇ。だから怖いですよね。そういうのを予言したとも言えるし」

M「よくよく考えると、20年代って混乱の時代ですよね。アインシュタインの相対性理論があるかと思えば、コナン・ドイルが神秘主義に傾倒していくだとか、科学と心霊というのが再びぐちゃぐちゃになってしまっていて、それに対してヤバイぞ、というのがあったんじゃないかな」

◆ベンヤミン・クリステンセン監督とは…

まつかわゆまさん1

まつかわゆまさん


M「この映画の監督クリステンセンさんは医学を学んでいたのですが、オペラをやりたかったので、止めて音楽学校に入ったんです。なかなか良かったのですが、ノイローゼで声が出なくなっちゃった。それで諦めて俳優さんの学校に行って、舞台俳優になったのですが、いい線行ってたのに、またノイローゼで声が出なくなってしまう。それで映画に行ったんです。サイレントですから。声が必要ないですから。それから監督になった方なんですって。この映画の中に悪魔が出てきたんですけれども、あれが本人ですよね。二枚目だし」

Y「いや、この映画だと二枚目に見えないんだけれども・・・カール・ドライエル監督の『ミカエル』では、ゲイの画家役で出ているんですけれども、ものすごくダンディですよ」

M「彼は、ノイローゼでもって何回も夢を諦めたというのもあって、精神的な病気には何か理由があるに違いないっていうのを映画にこめたという感じが私はしたんです。夢を諦めた恨みみたいのがここに出ているんじゃないかと」

Y「そうですねー。そういうことにはものすごく興味があったんでしょうね。そういう自分の病気を分析したいとかいうこともあって」

M「映画というメディアは、そういうことを考え、伝えることができると思ったんでしょうね。だからこんなにお勉強みたいな映画になっちゃった」

Y「本当にこういう映画は観たことないですね。ドキュメンタリーなんだけれど、うーんこれは一体なんなのだろう、すごく不思議な感じですよね」

M「ひとつひとつの画面は絵画のように美しく作っているし、特殊効果とかメイクとかストップ・モーションアニメ、最先端の技術も盛り込まれている。俺が映画の可能性を開いてやるんだぁみたいな感じがしますね」

Y「思う存分やっている感じですよね」


◆今年はサイレント映画に注目!

柳下美恵さん2

柳下美恵さん


M「これが当時の映画の最先端で、映画の可能性というものを最高に引き出したものなのですが、そういうのが繋がってきて、今の映画界は3Dというものに賭けていますけれども、それが最近はまた戻ってきているような感じがしますね」

Y「アカデミー賞部門最多候補の2本『ヒューゴの不思議な発明』と『アーティスト』がどちらもサイレント映画に関るものですものね。ヒューゴは3Dなんですけれども内容は、ジョルジュ・メリエス(映画創世記に初めてトリック撮影を考案した映画監督)のオマージュのような作品ですし」

M「一方の『アーティスト』のほうは、完全なサイレント映画になっている。これもまた素晴らしい作品ですね」

Y「今年は、サイレントをもう一回見直していただいてもいいのかな。それとライブ感覚っていうのも観ていただいて、楽しんでいただきたいですね」

取材 藤澤 貞彦



▼作品情報
【原題】Häxan/英題:Witchcraft Through the Ages
【監督・脚本】ベンヤミン・クリステンセン
【出演】ベンヤミン・クリステンセン/エラ・ラ・クール/アストリズ・ホルム
1922年/ スウェーデン・デンマーク /104分 /サイレント


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▼トーキョー ノーザンライツ フェスティバル
2012年2月11日(土)から2月17日(金)渋谷ユーロスペースにて開催
今年も、内容盛りだくさん、魅力いっぱいの「トーキョーノーザンライツフェスティバル」スケジュールの詳細、イベント、最新ニュースについては、下記公式サイトでぜひご確認ください。
公式サイト:トーキョーノーザンライツフェスティバル 2012

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