【TNLF】友達
都会にそびえ立つ、ガラス張りの高層ビル群。上階のほうには雲がかかっていて、地上からは建物の全貌を見ることができない。主人公のジョンは、そんなビルの一角にある高級マンションにひとり住んでいる。彼の職業は、離婚弁護士のアシスタントだが、その内実は、浮気現場を写真に収めるなど探偵業に近い。仕事上では家族の破たんばかりを見続けている彼は、皮肉なことに、私生活では結婚を迫られている。こうした状況の中、見ず知らずの6人家族が彼の部屋に乗り込んでくる。「孤独は人生で最も不幸なこと。孤独という病を治してあげよう」「信じあった者どうしで暮らすことがどんなに幸せか」と、彼らは自分勝手な善意を振りかざす。
この作品の孤独とは、現代の都会人の孤独である。それは、エビの住むガラス玉の水槽によって象徴されている。このガラス玉の中では、水は勝手に浄化され、酸素やエサが不足するということもない。この環境のバランスが絶妙に保たれた水槽は、快適ですべてがここで完結してしまうガラス張りの高層マンションと良く似ている。また、そこに住んでいるジョン自身は、そこに居れば余計な面倒には巻き込まれないという点で、水槽の中のエビと同類である。ひとり暮らしが寂しいわけではないし、友達は大勢いる。恋人だっている。どうしてガラス球の中から出る必要があろう。それに対して、結婚は、密接な人との関係ができるということであり、ガラス球の外に出ることを意味している。彼の生活は一言で言えば、無責任な孤独とでも言えば良いだろうか…それは当然、安部公房の戯曲が書かれた、全学連時代の孤独とはまるで違うものである。
時代が変わったことにより当然、6人の家族の行動も微妙に違ってきている。そもそも、このマンションの一室は、彼らが模様替えをしても、空虚さには変化がないのである。彼らがいくら部屋の中で存在感をアピールしようとも、都会の夜は、眠ることがなく、家の主が部屋にいる時間も少ないのである。故に彼らは外の世界にまで出向き実力行使せざるを得なくなる。ジョンの仕事を勝手に手伝う。あるいは、彼の恋人の職場に押しかけ嘘をつく。彼が出向いたバーにまで出没して親交を深めようとするなど。
確かに善意の押しつけとは、時代を超えて怖いものであるのだが、孤独の質の変質によって、押し付ける側も変わらざるを得なかったという点が、この映画の面白いところである。戯曲が書かれた時代には、おそらく孤独に関しては、それほどマイナスのイメージはなく、善意の押しつけの怖さのみが強調されていたのではなかろうか。ところが、現代(正確には、今日の原点となる時代)は、人々の無関心さに対抗するため、善意を押しつける彼らの側も、事前準備として、模型飛行機によってビルのガラスを破る強行手段まで使わざるを得ないのだから、涙ぐましい。裏を返せば、安部公房のこの戯曲は、時代によって変容していけるものであることが、この映画によって証明されたとも言えるのではあるが、複雑である。
Text by藤澤 貞彦
オススメ度★★★★☆
▼作品情報
【原題】Friends
【監督】シェル-オーケ・アンデション
【出演】デニス・クリストファー/レナ・オリン/ステッラン・スカーシュゴード/
ヘレーナ・ベルイストレム
【制作】1988年/ スウェーデン・日本/87分
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