【TNLF_2012】『オラファー・エリアソン スペース・イズ・プロセス』NYに巨大な滝が出現!? 体感型アートへの誘い

オラファー・エリアソンは最も注目されている現代アート作家の一人であり、世界各地で作品を制作・発表しては高い評価を得ている。そんな彼の最新ドキュメンタリーということで、会場には映画ファンだけでなく美術ファンも訪れ、立ち見が出るほどの盛況となった。上映前には本作品の字幕を監修した宮津大輔氏(アートコレクター)による作品紹介も行なわれた。

本作品はニューヨークで発表された「ウォーター・フォール(人工滝)」(08)の制作過程を中心に、舞台裏での貴重なコメントやプライベート映像も収録されている。「アートはさまざまな人を受け入れ、彼らを結びつける役割を果たしている」と語るオラファーはこれまでも人と人、人と環境との“関係性”を作り上げるアートに取り組んできた。大都会に巨大な人工滝を4つも作ってしまったこの衝撃的な企画は、彼を世界的に有名にした代表作といわれている。
「なぜ、そこに人工滝を作るのか」。この問いに対するオラファーの姿は印象的だ。彼の思考と解説は驚くほど論理的で、制作の狙いも明確だからだ。アーティストという職業はもっと感覚的な作業によるものだと思っていたので意外であった。人間の感覚構造についても語っているが、本作では観客がそれを体感できる、ある仕掛けが用意されている。これについて宮津氏は、「視覚の仕組みに気づかせてくれるだけでなく、オラファー作品の原点がわかるのではないだろうか」とコメントしている。

オラファーは現在ベルリンにある彼のスタジオで制作活動を行っており、家族と住むデンマークから車で通っている。カメラはそこでスタッフと共にランチを食べたり、打ち合わせをするオラファーの姿も追っている。彼と親交のある宮津氏がオラファー・スタジオについて次のように補足してくれた。「スタジオには物理学などの構造設計の専門家や広報の専門家、専任のコックまで色んな国から50人ほどのスタッフが集まっています。みんなで一緒にオーガニックのランチを食べているそうです。また彼はベルリン芸術大学の空間実験コースの講師として、スタジオ内にある教室で若いアーティストを指導しサポートしていますが、彼のスタジオはとてもオープンで、色んな人たちと色んなことをやっていこうという空気がありますね」。
会見や展示などでは知ることのできない貴重な素顔も収められているが、思わず笑ってしまったのが、会見での発言について広報担当の女性に念押しされるシーン。自分の作品について語るのに、広報の助言(というか命令)に対して素直に従うその姿は、母親の言うことを聞いている少年のよう。微笑ましくもあり、周りのスタッフとの信頼関係の強さが窺える場面であった。このドキュメンタリーは彼のファンにとっても、初めて彼を知る人にとっても新たな発見のある作品ではないだろうか。

Text by 鈴木こより
オススメ度 ★★★☆☆

本作品『オラファー・エリアソン スペース・イズ・プロセス』は2/16(木)19時より、トーキョーノーザンライツフェスティバル2012にて再上映されます。


▼オラファー・エリアソン(Olafur Eliasson)プロフィール
1967年、コペンハーゲンで生まれたアイスランド人現代美術家。89〜95年に王立デンマーク芸術アカデミーで学び、95年ヴェネツィア・ビエンナーレに初参加。以来、世界各地で作品を制作・発表し、高く評価されている。日本でも東京・原美術館(06年)、金沢21世紀美術館(09〜10年)、銀座ギャラリー小柳(10年)で展覧会を開催。


▼作品情報
原題:Olafur Eliasson : Space is Process
監督:ヘンリク・ルンデ、ヤコブ・イェルゲンセン
制作:2010年/デンマーク他/英語・デンマーク語/76分

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▼トーキョー ノーザンライツ フェスティバル
2012年2月11日(土)から2月17日(金)渋谷ユーロスペースにて開催
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公式サイト:トーキョーノーザンライツフェスティバル 2012

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