トーキョーノーザンライツフェスティバル 2012

~独断と偏見による映画祭ガイド~

セレブレーション1

『セレブレーション』より

昨年大好評だったトーキョーノーザンライツフェスティバルが、今年もやってくる。2012年2月11日(土)から2月17日(金)の七日間に、渋谷のユーロスペースにてJAPAN PREMERE4本を含む14作品が上映される。作品の大半が、日本未公開作、DVD未発売作であり、この機会を逃すと、二度と観られなくなる可能性のある作品が並んでいる。この充実ぶりだけでも驚きなのだが、この映画祭のもっと凄いところは、映画ファンたちが自分たちの手で作り上げてきたという点だ。アップリンクのワークショップの受講生が集まり、作品選定から会場選定、宣伝からチケット販売、イベント、映画祭の運営まですべて自分たちの手で行っているのである。昨年は、上映前に手造りのクッキーが配られるなどのサプライズもあり、そんな手作り感もこの映画祭の魅力になっていた。



さて、それでは、今年の映画祭のラインナップを、独断と偏見を交えて簡単にご紹介しよう。

【幻の傑作『魔女』最新修復版上映】

魔女1

      『魔女』(1921年/スウェーデン)

最初の大きな目玉は、『魔女』(1921年・サイレント)である。この作品はデンマークの俳優兼監督のベンヤミン・クリステンセンがスウェーデンに渡って撮影した作品である。16世紀、17世紀の魔女狩り裁判の記録を徹底的に調べ、それをヒントに作った本作は、そのサディズムとわいせつ性によって、当時16歳未満の鑑賞が禁じられたという衝撃作である。世界映画史上でももっともユニークな作品とも言われており、『裁かるゝジャンヌ』『吸血鬼』の巨匠カール・テオドール・ドライエル監督にも大きな影響を与えたとも言われる幻の傑作だ。日本では劇場未公開、DVDが発売はされているが、今回はそれよりも20分近く長い最新修復版であり、しかも柳下美恵氏のピアノ伴奏つきの上映となっている。
上映後行われる柳下美恵氏とシネマアナリストまつかわゆま氏の対談も楽しみだ。
(2月12日(日)16:30~ )



【フリドリック・トール・フリドリクソン監督特集 – Fridrik Tor Fridriksson -】

もうひとつの大きな目玉は、フレドリック・トール・フリドリクソン監督作品の特集上映だ。彼は、アイスランド映画界に多大な貢献と影響力を与えている重鎮である。彼の作品の魅力をひとことで言うと「見えない者が、普通にそこに存在する」というところである。亡霊たちの乗ったバスが道を走り、野原で精霊たちがダンスをしていても、彼の作品では、それが特別なことには感じられない。今回上映される『精霊の島』では、悪魔払いや予言をするお婆さんがとても重要な役割をもって出てくるのだが、これは彼の作品がアイスランドの土着の文化に深く根ざしていることをよく示している。すなわちアイスランド人は、クリスチャンでありながら、幽霊や精霊の存在が、とても生活の身近なところにあり、今でも自分たちの民話を大切にしている人々なのである。そんなことをちょっと頭に入れてご覧になると、映画がより楽しめるかもしれない。

マンマ・ゴーゴー

  『マンマ・ゴーゴー』(2010年/アイスランド)

今回の特集では、彼の最新作にして半自伝的作品『マンマ・ゴーゴー』(2010年)が観られるのが、大いに嬉しいところである。というのも彼の作品は、1998年以来、日本ではまったく公開されていないのだ。また、未公開作の『エンジェル・オブ・ザ・ユニバース』(2000年)、魅力溢れる旧作『春にして君を想う』(91年)『精霊の島』(96年・DVD未発売)にも触れられる貴重な機会なので、ぜひご覧になっていただきたい。大いに盛り上げ、この映画祭が彼の作品に再び光を当てるきっかけとなるように!



【The Origin-北欧映画作家たちの原点】

セレブレーション2

    『セレブレーション』(1998年/デンマーク)

次に注目したいのは、「The Origin-北欧映画作家たちの原点」という特集だ。
トマス・ヴィンターベア監督(『光のほうへ』)の『セレブレーション』(98年DVD未発売)は、「ドグマ95」の記念すべき第1回作品である。作品の冒頭では、ドグマ95の教義が掲げられている。トマス・ヴィンターベア、ラース・フォン・トリアーらが提唱した「ドグマ95」とは、映画製作の枠を、自らが縛った上で映画を作っていこうというひとつの運動だ。例えば徹底したロケーション主義、手持ちカメラでの撮影のみ可、アフレコ禁止などなど、数々の制約が課せられているのだが、『セレブレーション』はもちろん、それらを忠実に実行した作品である。確かに撮影は自然光で行わなくてはならないという制約があるので、夜のシーンでは、明らかに露光不足になっていたりもする。ところが、それがかえって、大きな屋敷の大広間という空間から余計なものを剥ぎ取り、着飾った人々の裏にあるそれぞれの内面を露わにさせ、大家族の愛憎を炙り出すことに、より一層の効果をもたらしているのである。画面から伝わる緊張感は並々ならぬものがあり、カンヌ国際映画祭審査員賞受賞も納得の傑作だ。


『エレメント・オブ・クライム』(84年)は、間もなく『メランコリア』が公開されるラース・フォン・トリアー監督の記念すべき商業映画の第1作である。ファンにとっては、彼の最初の作品と最新作を同じ月に観られるという幸せをこれで享受できることだろう。


『卵の番人』(95年DVD未発売)は、『クリスマスのその夜に』のベント・ハーメル監督の長編第1回作品だ。『ホルテンさんのはじめての冒険』『キッチン・ストーリー』など、彼の作品は、孤独と向き合う人々の姿を一貫して描いている。それでいて、いつもどこか可笑しくて、ホロリとさせられるのが特徴なのだが、この第1作では、その原点が伺えることだろう。(13日(11:30~)と16日(21:15~)に上映予定の『卵の番人』ですが、フィルムにトラブルがあったとのことで、残念ながら上映中止になりました。ピンチ・ヒッターは、同監督のアメリカ映画『酔いどれ詩人になるまえに』(2005)主演マット・ディロンとなります)



【他にも魅力的な作品がたくさんあります!】

『友達』(88年スウェーデン) シェル-オーケ・アンデション監督…安部公房原作作品を日本との合作で北欧風にアレンジ。24年ぶりの公開。

『ネクスト・ドア/隣人』(2005年ノルウェー) ポール・シュレットアウネ監督…隣人の荷物を運ぶのを手伝ったばかりに、恐怖に巻き込まれるサイコ・スリラー。『ジャンク・メール』(98年)など、監督はスリラー、サスペンスが得意。

『シンプル・シモン』(2010年スウェーデン)アンドレアス・エーマン監督…アスペルガー症候群の男の子が主人公のヒューマン・ドラマ。1月31日、上映を記念したシンポジウムもスウェーデン大使館にて行われる。

『ラップランド・オデッセイ』(2010年フィンランド) ドメ・カルコスキ監督…昨年のフィンランド映画祭で大評判だった、ダメ男たちのコミカルなロード・ムービー。
▼関連記事
【フィンランド映画祭2011】「ラップランド・オデッセイ」ドメ・カルコスキ監督インタビュー:本国No.1ヒット作は愛すべき“ダメ男”賛歌

『バック・ヤード』(2010年アイスランド) アルニ・スヴェインソン監督…アイスランドの音楽ドキュメンタリー。音楽ライター小倉悠加氏によるアイスランド・ミュージック・シーンの解説のイベントもあり。

『オラファー・エリアソン・スペース・イズ・プロセス』(2010年デンマーク)ヘンリク・ルンデ / ヤコブ・イェルゲンセン監督…現代美術作家、オラファー・エリアソンに長期取材したドキュメンタリー。専門家によるトークあり。

Text by  藤澤貞彦



メイン

©TNLF_2012

今年も、内容盛りだくさん、魅力いっぱいの「トーキョーノーザンライツフェスティバル」スケジュールの詳細、イベント、最新ニュースについては、下記公式サイトでぜひご確認ください。

公式サイト:トーキョーノーザンライツフェスティバル 2012

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)