【FILMeX】豊山犬(原題)(コンペティション)

38度線を行き来する「運び屋」の目に映るもの

※『プンサンケ』のタイトルで、2012年8月18日(土)より、銀座シネパトス他にて全国順次ロードショー!

(第12回東京フィルメックス・コンペティション作品)

命の危険を冒して南北朝鮮の国境を行き来する謎の男。モノだけでなくヒトさえも運ぶ「運び屋」の彼は、韓国に亡命した北朝鮮政府高官の愛人を脱北させよと言う特命を受けるのだが…。

38度線の鉄条網を飄々と飛び越える。その姿は、まるでヒーロー映画を見ているような爽快さだ。危険な目に遭いながらも、何とか無事に女性の脱北を成功させた男(しかも依頼を受けてから3時間と言う早業! )。しかし、それをきっかけに彼は南北双方から目を付けられることになってしまう。

北の工作員も南の情報員も、一番の関心事項は「彼はどちら側の人間なのか」と言うことだ。北に潜入する南のスパイなのか。南に潜入する北のスパイなのか。両陣営とも彼を拷問にかけるのだが、口を割ろうとしない。というか、劇中彼は誰に話しかけられても一言たりとも喋らない。セリフがないのだ。

何故彼は無言を貫くのか。彼の頑なさは、「どちら側でもない」と言う自己主張であり、まるで、そんなことは馬鹿げた問題だと言っているようだ。北と南の境界線を飛び越えるビジネスとしている「プロ」としての美学のようにも感じられる。メガフォンを取ったチェン・ジェホン監督は、上映後行われたQ&Aで「北と南ではアクセントが異なるため、出身地が特定される。彼はどちらにも属さない独立したキャラクターなので、セリフは必要ないと思った」と述べている。

そんな孤高のヒーローとは対照的に、「北」と「南」の情報員らは騒々しく滑稽な描かれ方をしている。映画の後半には主人公の策略により彼らが対峙する場面があるが、その対立の模様はシニカルな笑いをもたらす。大いなる皮肉。それを見つめる「運び屋」の目は、そのままこの映画の製作陣の視線なのだろう。

前述したチェン・ジェホン監督は鬼才キム・ギドク監督の助監督を務め、本作が2作目。脚本はキム・ギドクが担当している。北と南の問題を皮肉な笑いに変えながら、アクションやロマンス要素も盛り込み、エンタテイメントとしても成立している『豊山犬』。いや、このようなテーマでもエンタテイメントになるということか。2012年には日本でも劇場公開予定だ。

オススメ度★★★☆☆
Text by 外山 香織

▼作品情報▼
監督:チェン・ジェホン
脚本:キム・ギドク
出演:ユン・ゲサン、キム・ギュリ
英題:Poongsan
韓国 / 2011 / 121分

▼第12回東京フィルメックス▼
日時:平成23年11月19日(土)~11月27日(日)
会場:有楽町朝日ホール、東劇、TOHOシネマズ日劇他
公式サイト:http://filmex.net/2011/

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