【FILMeX】ニーチェの馬(特別招待作品)
第12回東京フィルメックス特別招待作品
第61回ベルリン国際映画祭・銀熊賞
第84回米アカデミー賞外国語映画賞ハンガリー代表
1889年のトリノ。ドイツの哲学者ニーチェは、鞭打たれる馬の首に抱きつき、そのまま発狂して二度と正気に戻ることはなかった。
「で、その時の馬はどうなったのか?」
34年間にわたり映画を撮り続けてきたハンガリーの鬼才タル・ベーラ監督は、最後の作品でその問いに対する答えを出したかったと語る。
風が吹き荒れる痩せた土地で父娘と馬が暮らしている。貧しく、彼らの日々は残酷なまでに単調だ。朝起きて、井戸の水を汲み、茹でたジャガイモを食べる。会話もなく“ただ生きるために生きる”という父娘の印象は、飼っている馬とさほど変わらないようにも思える。だが、何も起こっていないように見える日常に、ゆっくりと静かに変化は訪れていた。
静謐なモノクロームの画面からは、何とも言えない濃厚な空気と不気味さが漂ってくる。「何かがおかしい」と、父娘の動作のわずかな変化が気になりはじめる頃には、タル・ベーラの深遠な世界観に引きずり込まれていた。
「神は死んだ」と言ったニーチェの思想が少なからず反映されているような内容であるが、世界の破壊と終末について語る来客のセリフは監督自身の考えなのではないかと思う。これまで独自の美学と哲学、反体制を貫いてきた監督のラストメッセージなのではないかと(ちなみに哲学者志望であった監督は16歳の時に撮った短編作品が反体制的であるとして大学の入学資格を失っている)。厳選されたセリフだけを用い、余計なものを徹底的に排除した本作品は、強烈な余韻を残す、洗練を極めた芸術映画だ。白黒のコントラストが織りなす映像美は唯一無二であり、監督がモノクロームフィルムにこだわり続けた理由がわかった気がした。
最後に、記者会見で監督が語った印象的な言葉を紹介したい。
「神はこのクソみたいな世界を6日間で創ったわけですが、この作品では世界が逆行していく6日間を描いたのです」。
タル・ベーラ監督は今後、後進の育成や映画プロデューサーとして映画と関わっていかれるとのことです。
※11/24(木)18:00に東京フィルメックスで上映。ハンガリーから来日中のタル・ベーラ監督も登壇予定。
オススメ度:★★★★★
Text by 鈴木こより
▼『ニーチェの馬』作品情報▼
2012年2月、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!
英題:The Turin Horse
監督:タル・ベーラ
脚本:タル・ベーラ、クラスナホルカイ・ラースロー
出演:ボーク・エリカ、デルジ・ヤーノシュ
制作:2011年/154分/ハンガリー=フランス=スイス=ドイツ
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/uma/
▼第12回東京フィルメックス▼
日時:平成23年11月19日(土)~11月27日(日)
会場:有楽町朝日ホール、東劇、TOHOシネマズ日劇他
公式サイト:http://filmex.net/2011/
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