【FILMeX】グッドバイ

モハマド・ラスロフ監督の祖国イランへの落胆の物語

(第12回東京フィルメックス・コンペティション作品)
芸術分野でも様々な統制がかかるイランにおいて、本作のような反アフマディネジャド体制色の濃い映画を撮ること自体だけでも、十分に賞賛に値することだろう。しかもモハマド・ラスロフ監督は、昨年3月1日にジャファル・パナヒ監督(『オフサイド・ガールズ』(06))とともに逮捕され、保釈中に本作を撮影したというのだから、その並々ならぬ行動力と勇気には頭が下がる思いだ。

これはラスロフ監督の祖国イランへの落胆の物語と言ってもいいだろう。本作そのものはフィクションだが、ヒロインの弁護士ヌーラ(レイラ・ザレ)に監督自身を投影しているのは、間違いないはずだ。彼女は妊娠中で弁護士資格を停止されているので、仕事がない状況に追い込まれている。しかもジャーナリストの夫は当局から追われている身のため、彼女の周辺にも監視の目が向けられている。ヌーラは祖国を出ることを決意するが、ビザを取得するためにも膨大な労力と時間と費用(賄賂含む)をつぎ込むなど、困難な闘いだった。

「国内で疎外されるくらいなら、海外で疎外されるほうがまし」とヌーラは語る。その言葉が何と孤独に満ちていることか。生まれ育った祖国から理不尽な仕打ちを受けるというのは、何よりも悲しい。ヌーラの、そしてラスロフ監督の自由への渇望、そして祖国への失望と怒りが静かに伝わってくる。また、“灰色の街”とも形容すべきような、首都テヘランの寒々しく抑制の効いた映像も、それを増幅させており、ラスロフ監督の「伝える」ことの確かな手腕に、唸らされた。今年のカンヌ国際映画祭・ある視点部門での監督賞受賞も納得である。

この映画の観客の誰もが、ヌーラがどうか無事に出国できますように・・・!と、じりじりとした思いでスクリーンを見つめていたに違いない。果たして我々の願いは通じるのか。そしてタイトルの“グッドバイ”とは誰に向けられた別れの言葉なのだろうか・・・と思いを巡らすと、イランのあまりにも不条理な状況が、ずっしりと心に重くのしかかる。

オススメ度:★★★★☆
Text by 富田優子

▼作品情報▼
監督:モハマド・ラスロフ
出演:レイラ・ザレ、ハッサン・プールシラズィ、ベヘナム・タシャコル、シマ・ティランダス
英題:Good Bye
イラン / 2011 / 104分

▼第12回東京フィルメックス▼
日時:平成23年11月19日(土)~11月27日(日)
会場:有楽町朝日ホール、東劇、TOHOシネマズ日劇他
公式サイト:http://filmex.net/2011/

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