『マリー・アントワネットに別れをつげて』インタビュー① レア・セドゥ

オリジナルの視点でフランス革命が描かれていることに惹かれたの

今年のベルリン国際映画祭のオープニングを飾った、ブノワ・ジャコー監督作品『マリー・アントワネットに別れをつげて』。1789年7月14日、フランス革命が勃発。国王ルイ16世と王妃マリー・アントワネットが暮らすヴェルサイユ宮殿に“処刑者リスト”が流れ、王妃と王妃の寵愛を受けるポリニャック夫人の名もリストに載った。王妃に心酔する朗読係のシドニーは王妃への忠誠を誓うが、王妃からはポリニャック夫人の命を守るため、彼女の身代わりになれ、という非情な命令が下る――。

主人公シドニーを演じたのは、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』での凄腕の殺し屋役でも注目を集めた、フランスの新進女優レア・セドゥだ。本作が10月の第25回東京国際映画祭の特別招待作品として上映されたのに合わせて、レアとジャコー監督が来日。本記事ではレアのインタビューをお届けする。

3度目の来日を果たした、人気急上昇中のレア・セドゥ

●ヴェルサイユ宮殿でのロケ
フランス革命を描いた作品は多いが(洋の東西を問わず、また映画に限らず小説や漫画でも)、本作の特徴的な点は、王妃に使える朗読係が体験した革命が語られており、その視点が常にヴェルサイユ内部、そして王妃に向けられていることだ。レアも「オリジナルの視点でフランス革命が描かれている点」に惹かれたと語るが、宮殿内の混乱ぶりやアントワネットの生々しく、“肉感的な”行動は、これまでの作品ではあまり目にしたことがないものだった。

そんな本作の舞台となったヴェルサイユ宮殿。現地での撮影を行っているが、世界遺産でもあり、フランス史からは切り離せない歴史的価値のある場所でのロケをレアはどう感じていたのか?
「あのヴェルサイユを私たちが独占していたことが素晴らしかったわ。観光客がいない状態で、宮殿内を自由に見て歩き回れるなんて、とても貴重な体験だったのよ」と振り返ってくれた。

●共演女優との距離のとり方
そのヴェルサイユで三人の女の愛憎が紡がれていく。シドニーとアントワネット(ダイアン・クルーガー)とポリニャック夫人(ヴィルジニー・ルドワイヤン)だ。シドニーと王妃は主従の関係であり、王妃とポリニャック夫人は愛し合い、シドニーと夫人はシドニーが一方的に夫人に嫉妬心を募らせる。そんないびつな関係が展開するが、撮影中、レアは共演のダイアンやヴィルジニーとどのように接していたのだろうか。
「私が演じたシドニーは王妃の使用人だから、王妃と親しくなることはあり得なかったわ。階級的にもシドニーと王妃の間には、距離感が生じているべきものなの。それにダイアンは本当に王妃になりきっていたのよ。その距離感を保つためにも、彼女とは撮影中は親しく話すことはしなかった。ヴィルジニーとは・・・、そうね、彼女は撮影現場に長くいたわけではなかったから、自然と距離感ができていたわ」とレア。

この距離感については、ジャコー監督が、後のインタビューで、
「僕が出演者やスタッフに常々言っていたのは、この映画の中心人物はマリー・アントワネットだけど、主人公はシドニーだということだ。どのカットにもシドニーが存在しているでしょう?王妃もポリニャック夫人も重要な役割を担うけれど、何と言っても主役はレア。ダイアンもヴィルジニーも、映画を馬車に例えたら先導役はレアと理解したうえで、(映画に)参加してくれたよ。そういう観点からも、彼女たちの間で自然と距離感が出たんじゃないかな」と補足を。監督は、俳優に演技指導をしないというポリシーがあり「僕が望むような(作品の)空気感を、キャストが自然につくってくれることを願っているんだ」とも話してくれたが、本作でもそれが成功し、俳優陣の間で適切な距離感が生まれたということだろう。

また、レアはジャコー監督作品への出演は初めてだが、監督の印象について訊ねると、
「ブノワの映画への出演は初めてなのに、なぜか初めてのような気がしなかったわ。とても自然で、一瞬でお互いを理解できたのよ」と言うように、監督との信頼関係も映画の成功に結びついているようだ。今後また二人のタッグが見られる日が来るかもしれない。

●女優になるきっかけ、尊敬する女優
祖父ジェローム・セドゥはフランスの映画会社パテの会長であり、大おじのニコラ・セドゥも映画会社ゴーモンの会長兼CEOという、映画一家に生まれたレア。そういう家庭環境が女優を志した理由と関係しているのだろうか?
「家族の職業とは関係なく、あくまでも私の個人的な理由から女優になったのよ」とレアからは期待に反した(?)答えが。
「小さい頃は女優になるなんて考えもしなかったけれど、学校に女優志望の友人がいて、彼女と映画の話をよくしていたの。彼女には男優の知り合いがいて、彼と話しているうちに、彼の人生が自由に満ち溢れていて、羨ましいって思ったわ。それが女優になろうと思ったきっかけよ」とその“個人的な理由”を教えてくれた。

では、尊敬する女優や影響を受けた作品や人物について訊ねると、「古典の作品に影響を受けている」とのこと。具体的には?
「カトリーヌ・ドヌーヴ、マリリン・モンロー、イングリット・バーグマン。ジャン・コクトーやチャールズ・チャップリンの作品にも影響されたわね。想像の世界をとても上手に作り上げていたと思うわ」。

(後記)
ジャコー監督はレアを「町で彼女と会ったら、思わず追いかけたくなるほど魅力的」と評していたのだが、同性ながらそれも納得。取材中、至近距離で接した彼女の美貌とオーラの輝きに釘付けだった。これまでの作品では物憂げな表情が多かったレアだが(『幻の薔薇』『美しき棘』などは仏頂面がキモで、個人的にはレア出演作では特に好きな作品!)、インタビューでは麗しい笑顔も見せてくれて貴重な(?)体験だった。もちろん美貌だけではなく、その演技力も折り紙つき。今後のさらなる飛躍を心から楽しみにしている。
なお、ジャコー監督のインタビューは後日、別途掲載予定なので、そちらもお楽しみに。

▼プロフィール▼
レア・セドゥ Léa Seydoux
1985年フランス、パリ生まれ。『Mes copines』(06)で映画デビュー。クリストフ・オノレ監督の『美しいひと』(08)で、ショパール・トロフィー賞新人賞を受賞し、セザール賞有望若手女優賞にノミネートされ、注目される。クエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』(09)への出演をきっかけに国際的にも活躍、リドリー・スコット監督の『ロビン・フッド』(10)、トム・クルーズ主演の大ヒットシリーズ『ミッション: インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(11)で一気に知名度を得る。また、モデルとしても活躍、プラダの香水のCMなどに出演。
その他の主な出演作:『戦争について』(07)、『最後の愛人』(07)、『ルルドの泉で』(09)、『幻の薔薇』(09)、『ミステリーズ 運命のリスボン』(10)、『美しき棘』(10)、『ミッドナイト・イン・パリ』(11)など。最新作は『L’enfant d’en haut』(12、ベルリン国際映画祭 特別銀熊賞)。

▼作品情報▼
原題:LES ADIEUX A LA REINE
監督・脚本:ブノワ・ジャコー
原作:シャンタル・トマ「王妃に別れをつげて」
出演:レア・セドゥ、ダイアン・クルーガー、ヴィルジニー・ルドワイヤン、グザヴィエ・ボーヴォワ、ノエミ・ルボフスキー
製作:2012年/フランス=スペイン/100分
配給:ギャガ
公式サイト:http://myqueen.gaga.ne.jp/
© 2012 GMT PRODUCTIONS – LES FILMS DU LENDEMAIN – MORENA FILMS – FRANCE 3 CINEMA – EURO MEDIA FRANCE – INVEST IMAGE
12月15日(土)よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ 他全国順次ロードショー

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