【第34回PFFぴあフィルムフェスティバル】黒沢清監督トークショー

『贖罪』は僕のフィルモグラフィーで大きな位置を占めると思います

黒沢清監督

9月22日(土)、黒沢清監督が手掛けたWOWOWドラマ『贖罪』が、第34回PFFぴあフィルムフェスティバルで上映された。これは、WOWOWで2012年1月から放映されたもの(全5話、300分)をヴェネチア国際映画祭出品に際し、270分に再編集したもの。今回上映されたのは、その“国際映画祭ヴァージョン”だ。上映後には黒沢監督がトークショーに登壇。重苦しいテーマのドラマ、しかも270分という長丁場、どっぷりとその世界観にはまった観客だが、監督のトークに熱心に耳を傾けた。

●有名小説の映像化について
原作は湊かなえさんの同名小説。ある田舎町で少女殺人事件が起こり、被害者の母親が事件直前まで被害者と一緒にいた同級生4名に、ある種理不尽な贖罪を求めるが、それが5人の運命を狂わせていく物語だ。
これを仮に映画化した場合は通常2時間程度の長さになるだろうが、ドラマは5時間分ということで、たっぷり時間がとれた計算となる。その点について黒沢監督にとって違いはあったのだろうか?
「原作小説は5つの章に分かれていて、5人の女性の物語という形になっています。なので、5時間トータルの映画を撮っているという感覚より、5本の映画を撮っているという気分でした。2時間ものの映画との違いは特に感じませんでした」と監督。ただ、原作小説が有名であることについて、「つくり手側の都合で内容を変えてはいけないと思ったし、何よりも読者を裏切ることはしてはいけない」と気を遣ったそう。

原作者の湊さんについては、「映像に理解がある方でした」。ドラマオンエア前の完成試写に湊さんが来た時、「(湊さんが)試写の後の打ち上げにまで参加して下さったのですが、とても楽しそうにされていて、気に入って下さった様子が窺えました。僕はいったいどんな悪口を言われるのだろうか・・・とヒヤヒヤでしたが(笑)」と、原作者を前にして非常に緊張したエピソードを披露してくれた。

●豪華なキャスティング
本作は物語の主軸となる、殺人事件の被害者の母親、麻子役の小泉今日子をはじめ、事件から15年後の被害者の同級生役には蒼井優、小池栄子、安藤サクラ、池脇千鶴という、実力派女優の豪華キャストも注目だ。
「テレビだからこそ実現できたキャスティング。映画で主役級の女優を5人集めるのはとても大変だから」と黒沢監督は、テレビドラマの利点を挙げた。

黒沢監督はそんなキャスティングについて「麻子の年齢を40代半ばから後半と考えて、小泉さんが理想的とプロデューサーも僕も考えていました。小泉さんから快諾のお返事をいただき、すんなり決められて嬉しかった」と、『トウキョウソナタ』(08)でも一緒に仕事をした小泉の起用を最初に決定したことを明かした。
逆に残りの4人の配役については、年齢的に20代半ばから30歳くらいの女優のなかで、小泉と対峙してもちゃんと芝居ができる人という観点から考えたという。いろいろな候補が挙がり、最終的に出演の4名が決まったが、では彼女達にどの役を演じてもらうのが相応しいのかを考えるのは大変だった。
「例えば、結果的に池脇さんに第4話を担当してもらったが、彼女が第2話を演じたほうがいいのか等と、パズルのように役と女優さんとの組み合わせを考えていました」と苦労した点を語った。でも「第3話の(怪演をみせた)安藤さんは比較的すんなり決まったんですけどね」と会場の笑いを誘う場面も。
黒沢監督は4人とは初めての仕事となるが、「皆さん素晴らしい女優さん。日本のこの世代(20代半ば~30代前半)の女優の実力は、世界を見回しても充実しているのでは?」と絶賛した。

そしてもう一人、最終話だけの登場だが、物語のキーパーソンとなる青木(原作では南条)役について、「小泉さんと釣り合いがとれることを考えると、やっぱり香川(照之)さんしかあり得ない」という結論になり、結果的に『トウキョウソナタ』コンビで行くことになったという。

●映画界への憂慮
黒沢監督は、テレビには「企画と予算が通れば何をやってもいい」という安心感があると語る。「○月○日にオンエアされるという確実性があるので、不安がない。本来は映画もそうあるべきだ」。
その映画に対しては、「興行成績等の結果を気にして、冒険できないプロデューサーもいる」と、現状を危惧する様子も窺えた。「下手したらお蔵入りという不安もあり、思いっきりやれる環境が映画界には少なくなっているのかもしれません」。

今回のPFFには、映画とテレビと分けるのではなく、「映像」として挑戦するという意味合いもある。チャンスがあれば何でもやってみたらいいというのが意図。本作の他に、やはりWOWOWドラマ『エンドロール~伝説の父~』(石井裕也監督、中村獅童主演)が上映されたのも、その意図を汲んだものだ。
「意欲的な人が意欲的な作品を撮るのに、このWOWOWドラマという枠はいいのかもしれませんね」と黒沢監督は振り返る。

●『贖罪』での収穫
黒沢監督にとって本作は『トウキョウソナタ』以来の作品となった。
「だからすごく新鮮な気持ちで撮影に臨めました。『贖罪』は僕のフィルモグラフィーでも大きな位置を占めると思います。スタッフにも恵まれたし、また別の仕事でも何らかの形で彼らと一緒にやりたい。そういう関係を築けたことが大きな収穫でした」。

本作はすでに国際映画祭での出品も次々と決まっているそう。また今後、日本で本作を上映できる機会があれば、どんどん対応してきたいという。すでにDVDも発売されているが、大きいスクリーンで観ることで5人の女性の「贖罪」とは何か?彼女たちは何を背負い、何を失ったのか?が観客の心により強く突き刺さり、観る楽しみが増幅しそうだ。また、黒沢監督は7月に新作映画を撮り終え、来年6~7月公開に向けて編集中とのこと。詳細の話は出なかったが(涙)、こちらのほうも今から期待が高まってしかたがない。

世界的な名声を得ている黒沢監督だが、このPFFで『しがらみ学園』(80)が入選したことで注目を集めたという経歴を持つ。新たな若い才能を発掘する意味もあるPFFは今月28日(金)まで開催中。スケジュール等は公式サイトでご確認いただきたい。

▼『贖罪』作品情報▼
監督・脚本:黒沢清
出演:小泉今日子、蒼井優、小池栄子、安藤サクラ、池脇千鶴、森山未來、水橋研二、加瀬亮、長谷川朝晴、伊藤歩、新井浩文、田中哲司、香川照之
2012年/270分/カラー

▼「第34回PFFぴあフィルムフェスティバル」概要▼
会期:2012年9月18日(火)~28日(金)
会場:東京国立近代美術館フィルムセンター(※月曜休館)
第34回PFF公式ホームページ:http://pff.jp/34th/
PFF公式ツイッターアカウント:@pff_award
PFF Facebookページ:http://www.facebook.com/PiaFilmFestival


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