【FILMeX】イラン映画界監督たちの現状(レポート)

これは映画ではない1今回、東京フィルメックスでは、『グッドバイ』『これは映画ではない』2本のイラン映画が上映された。フィルメックス事務局では、もちろんこれらの作品の監督たち、モハマド・ラスロフ監督、モジタバ・ミルタマスブ監督を招待していたところであったのだが、2人とも来日できなかったため、2011年11月26日『これは映画ではない』上映後、急遽、市山尚三プログラミング・ディレクターより、その理由やイラン映画の監督たちの現状についての説明会が行われることとなった。ちなみに、『これは映画ではない』のジャファル・パナヒ監督は、作品でも描かれていたとおり、現在も自宅軟禁中である。

【ジャファル・パナヒ監督の近況について】

2009年6月イランの大統領選挙では、ミール・ホセイン・ムーサヴィー氏が優勢と伝えられる中で、保守派のマフムード・アフマディーネジャードが大統領に当選した。
ムーサヴィー支持者は一斉に「不正選挙」と反発。デモが起こり警官隊と衝突する騒ぎになった。ジャファル・パナヒ監督は、ムーサヴィー氏を支持の活動に参加しており、その事が元で、2009年12月に逮捕される。(ジャパンタイムス)ここから彼の苦難が始まっている。

・2010年2月/ベルリン映画祭「イラン映画の現代」というシンポジウムが行われる予定のところ、出国拒否され参加できなかった。

・2010年3月1日/私邸にて映画製作の準備中に警察に踏み込まれ、スタッフ奥さん、娘さんも含めて拘束された。モハマド・ラスロフ(『グッドバイ』監督)も助監督として参加することになっており、その場にいたため、一緒に拘束された。ジャファル・パナヒ監督以外はその後釈放される。

・2010年4月/カンヌ映画祭が開かれる。ジャファル・パナヒ監督は審査員として招待される(彼をプロテストする目的もあった)が、もちろん参加できず。

・2010年5月25日/保釈金を支払って釈放され、自宅軟禁状態になる。

・2010年12月20日/一審判決がでる。6年間の懲役、20年間の映画製作禁止、出国禁止、マスコミとの接触禁止。イラン国家の安全を脅かしたというのが判決理由。
大統領選挙の後のある家族の映画を作ろうとしていたのを、当局から睨まれたとの説あり。その後、さまざまな映画人が抗議文を出す。

・2011年2月ベルリン映画祭/パナヒを審査員として招へいする。もちろん参加できず。

・2011年5月/カンヌ映画祭にて「これは映画ではない」上映。ミルタマスブ監督が舞台挨拶するが、特に政治的発言はできなかった。同映画祭で、『グッドバイ』が「ある視点部門」で監督賞を受賞するも、モハマド・ラスロフ監督は出席できず、代わりに奥さんが賞を受ける。

「『これは映画ではない』は、映画を製作してはいけないことになっているので、このタイトルにしたということです。二人で密かに作ったというのに、ユーモアもあり、エンターテインメントといってもいいくらいの作品になっているのがすごいところです。
『グッドバイ』は、モハマド・ラスロフ監督が釈放中に密かに作ったものだということです。この2作品は、政府の許可を得ていないため、USBファイルに映画を収め、それをお菓子の箱の中に入れて持ち出し、カンヌ映画祭にエントリーしたということです。デジタルだからできたことでもあるわけです。」(市山ディレクター)

・2011年9月/モジタバ・ミルタマスブ監督がトロント映画祭に招待されていたのだが、出国を止められてしまう。この時期、フィルメックスでも招待状を送っており、この時点では、来日することが決まっていた。

・2011年9月17日/ミルタマスブ他5人の映画人が、BBCがイランで撮影したドキュメンタリーに協力したという罪で拘束される。理由は、それがスパイ活動にあたるということだった。BBCは、「スパイ活動にあたるなんて、事実無根、逮捕された人の中には、まったく協力していない人まで含まれている」と声明を出す。ミルタマスブ以外はすべて釈放されたのだが、彼はいまだに拘置所にいる。すでに65日間の拘束、あと一カ月拘束期間が延びる可能性があるとのこと。

・2011年10月14日/ジャファル・パナヒ監督控訴審の判決が出る。一審をそのまま支持。確定。自宅軟禁のままで収監はされていないようである。同時にモハマド・ラスロフ監督は、6年間を1年間の懲役に減刑された。ちなみに、パリで9月に『グッドバイ』が公開されたときにラスロフ監督は立ち会ったというニュースは入ってきているので、彼は、ある程度の自由があるようだ。

・2011年10月18日/国外在住の20人のイラン映画人たちが、「イラン映画人たちの拘束と迫害についての声明文」を発表する

【イラン映画人たちの拘束と迫害についての声明文要旨】

「BBCペルシャのドキュメンタリーに協力したとして5人の映画人が逮捕された事件で、で3人は釈放されたが、まだ2人は釈放されていません。逮捕された映画人たちはフランス、イギリスなど西洋の権力の手先となったということで厳しい尋問を受けています。10月14日ジャファル・パナヒ監督は、6年間の懲役、20年間の映画製作禁止の刑が確定したそしてモハマド・ラスロフ監督は1年間の懲役が確定しました。この2、3カ月の間に多くの映画人がイランの情報局によって取り調べを受けています。世界の外務省や文化省、あるいは映画やテレビの組織は、イランの映画人たちが逮捕されていることに関して声明を発表していただきたい。また、拘留された映画制作者たちが釈放されるまで、すべてのイランのフィルムとテレビ当局に対して国際的な制裁を求めます。」

(主な署名者)

ショーレ・アグダシュルー(女優)
『砂と霧の家』でオスカー・ノミネート

モフセン・マフマルバフ(監督)
監督モフセン・マフマルバフ『セックスと哲学』を撮ったあと、イランには帰らず、パリの市民権を得たということである。しかし、その後は映画を撮っているという話はありません。家族(サミラ『ブラックボード背負う人』監督、ハナ『ハナのアフガンノート』監督)も選挙後に危険であると、全員パリに呼び出して無事であるとのこと。

シリン・ネシャト(女性アーティスト)

バフマン・ゴバティ(監督)
『ペルシャ猫を誰も知らない』の後、イランには帰っていない。

ババク・パヤミ(監督)
『1票のラブレター』を撮った後、『二つの思考の間の沈黙』がフィルメックスで上映されたが、そのフィルムのネガが当局に没収されるなどの事件があり、その後はイランには帰ってはいない。イタリアなどで映画学校の教師をやり、生活しているとのこと。

なお、詳細については、英文ではありますが、下記にて見ることができます。
Film artists speak out for detained colleagues


このレポートをお読みになって、イランの映画界、言論界のこうした厳しい状況を、ひとりでも多くの方に伝えていただければ、幸いです。

取材:藤澤 貞彦



▼第12回東京フィルメックス
期間:2011年11月19日(土)〜27日(日)
場所:有楽町朝日ホール・東劇・TOHOシネマズ日劇 有楽座
公式サイト:www.filmex.net
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