ドイツの原発ドキュメンタリー「アンダー・コントロール」フォルカー・ザッテル監督インタビュー:原発について自分自身で考えてほしい
今回、来日したザッテル監督にインタビューを行ったので、以下にお届けする。
ザッテル監督は子供時代、原発から10㎞圏内の距離に住んでいたという。その頃は原発についてどのように捉えていたのだろうか?
「学校で言われていたのは、「もし原発で事故が起こったら、(放射性物質を)除染してから家を離れる必要がある。だから事故が起こったらすぐに逃げるのではなく、家から出るな」ということでした。子供心にも何となく不安はありましたが、大人が言っていることだから、と安心していました」と監督は当時を振り返る。続けて「子供時代の私にとっての原発は、迫力のある巨大なモニュメントのようなものでした。それが景色に溶け込んでいて、むしろ親しみのある風景でした」。
そんな子供時代の原発の思い出が、本作を撮るきっかけとなったのだろうか?
「いいえ、子供時代の(原発の)印象が直接的な動機ではありません。1986年にチェルノブイリ事故が起こり、ドイツでも原発や放射能汚染に対する恐怖や不安が広がりました。この頃からドイツでは原発に対する議論が活発になり、現在に至っています。そして、メルケル首相が福島第一原発の事故をきっかけとして脱原発を打ち出したのは、周知の通りですね」とドイツにおける歴史的経緯に触れた。そして、賛否の議論が活発になったことで「原発に対して、多くの人に別の視点を与えたいと思った」と動機を語った。
その“別の視点”とはどういうことなのだろうか?
電力会社は原発を「危険ではない」と言い、原発反対派は「危険」と主張する。つまり、ザッテル監督は“危険”の認識が共有されていないことに疑問を持ったという。その認識のズレは何なのか?と感じた監督は、「自分でその答えを見つけたかったから、原発反対派、推進派、それぞれの立場から与えられたイデオロギーに染まった意見や視点ではなく、イデオロギーから離れた視点、ユニバーサルな視点で映画を撮りたいと思ったのです」と具体的に解説してくれた。
だから「ナレーションもテロップもつけなかった。もちろんアーカイブ映像も意図的に使用しませんでした」とザッテル監督。「何らかのコメントをつければ、それは私の主張となってしまう。それは避けたかったのです。観客にはまっさらな状態で映画を観てもらい、そして考えてもらいたかった」と現在のありのままの状態で、観客に見てほしいという強い思いを語った。
本作に登場する原発の制御室や、廃棄物処理場などで作業員が淡々と働いている姿は、まるでSF映画に出てくるような無機質な美しさをたたえており、とても印象的だ。ザッテル監督もそういう光景を見て美しいと感じたのだろうか?
「原発は危険であるという脅威と、人を魅了するような美しさという、アンビバレンスなものが同時に存在していることが、私自身も面白いと感じました。原発は一つの視点だけでは捉えられないという意味も込めたつもりです。」
本作の製作は、2008年から3年にわたって継続された。最も大変だったのが「電力会社など大会社の理解を得ること」だったと明かすザッテル監督。産業界を説得するにあたって「映画のことを理解してもらうには、忍耐力と持久力が必要だった」という監督が、最も心を砕いたことは何だったのか?
「私が存在する(映画の)世界と、彼らが存在する世界(産業界)はまったく異なる世界なのです。まず、私自身を彼らに理解してもらうために、まず、彼らのことを理解しようとしました。そして、「私がつくろうとしている映画は、決して誰かを告発するような映画ではないんだ」ということを何度も何度も強調しました。彼らにどうにか納得してもらい、撮影の許可が出るまでは、それはもう大変でしたね(笑)」と苦労話を披露した。
そんな苦労を重ねて3年後に映画が完成。映画を電力会社の人達に見せたところ、「とても感謝された」という。
その理由を「原発で働く人々にとっても、この映画を観たことで自分達の世界(自分達が働いている場所)を客観的に見ることができたようです。ドイツでは原発作業員は世間からあまりよく思われていないんですよ。むしろ一方的に非難されることも多くありました。だから、私が真面目にこの映画に取り組んだことを喜んでくれました」とザッテル監督は感慨深げに語った。
「この映画は、配給会社(イメージフォーラム)さんからの、日本の皆さんへのプレゼントですね(笑)。皆さんが原発を理解する足がかりになるんじゃないかと思っています。そして、自分自身で原発についていろいろと考えてほしいですね」と観客へのメッセージをお願いすると、このように語ってくれたザッテル監督。ドイツでも原子力産業のプロパガンダ的な宣伝が行われたことがあったということで、情報の全てを鵜呑みにするのではなく、自分で考えていくことの重要性を強調した。そして「何よりも面白い映画と思ってくれれば嬉しく思います」とも付け加えた。
(後記)
福島の事故が起きた今となっては、どの国の原発も撮影許可を出すのはより困難となり、こんな映画はもう出来ないだろう、とはザッテル監督の弁。そういう意味でも本作はとても貴重な作品だ。また、インタビューのなかでも触れたが、原発内部の映像は美しい。非日常の世界にいるような錯覚に陥るが、これは“つくりもの”ではなく“現実”であることを忘れてはならないだろう。
同時に考えたのは、もし3.11前にこの映画を観ていたら、どう感じたのだろうか?ということだ。「へえ~」だけで終わっていたかもしれないし、起伏のないドキュメンタリーで寝落ちしていたかもしれない・・・。それは原発に対して無関心だったということに因るものだ。だが、もう3.11前の感覚には戻れない。だからこそ、今後のことを考える必要性は誰もが感じていると思う。ザッテル監督の「考えてもらいたい」というコメントにもあるように、原発について一人一人が真剣に向き合う重要性を、改めて痛感する映画である。
取材・文:富田優子
〈プロフィール〉
フォルカー・ザッテル
Volker Sattel
1970年生まれ。1993年から1999年に、バーデン=ヴェルテンヴェルク・フィルムアカデミーで劇映画とドキュメンタリー映画の監督と撮影を専攻。制作した多様な作品群は映画祭や展覧会、テレビなどで上映されている。また映画の制作活動と並んで、オラフ・ニコライ、ダニエル・クラインなどのアーティスト、ティム・エルツァーや作家のマリオ・メントルップらとのコラボレーションも行っている。本作は共同監督作品を除けば、初の長編ドキュメンタリー作品。
▼作品情報▼
製作国:ドイツ
製作年:2011年
監督:フォルカー・ザッテル
原題: UNTER KONTROLLE
配給:ダゲレオ出版 イメージフォーラム・フィルムシリーズ
©Stefanescu/Sattel/Credofilm
11月12日、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
※大阪は11月26日、シネ・リーブル梅田にて上映となります。
※それ以外の上映情報は公式サイトをご参照ください。
公式サイト:http://www.imageforum.co.jp/control/
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