「カウントダウンZERO」世界の核兵器および核物質管理の実態とは?
3.11東日本大震災に起因する福島原発事故を経験した日本人にとって、核の恐怖は再び現実のものとなった。果たしてこれから我々はどこへ向かうのか。未来に向けて今一度、自分たちの立ち位置を確認するのは大事なことだろう。「カウントダウンZERO」は、その一つのきっかけにふさわしい作品だ。
本作は、核の恐怖を核兵器の存在と核物質の保管という観点から斬り込んだドキュメンタリーである。ケネディ米国大統領の「我々は糸で吊り下がった核の下で生きている。その糸は、事故・誤算・狂気で切断される」という言葉を引用し、“事故・誤算・狂気”をキーワードに、それぞれの視点から、核が存在することの危険性を訴える。また、合間に挟まれる世界中の街頭インタビューからは、その危険がいかに認知されていないかという現実が浮き彫りになる。調査取材に加えて、カーター元米国大統領やゴルバチョフ元ソ連大統領、ブレア元英国首相など、各国元指導者たちを始め、登場する核物質管理現場経験者たちから次々と飛び出す、生々しい証言。ここで明かされる事実の数々には、ただ驚くばかりだ。盗難が頻発し、“ジャガイモの方が厳重だった”というロシアの核物質管理の実態。消息を絶ったまま放置された原子力潜水艦など、軍により隠蔽されてきた数々の事故。我々の記憶に深く刻み込まれたオウム真理教も含む複数のテロ組織による核兵器開発計画。次々と露わになる核兵器の恐怖と、厳重に管理されるべき放射性物質の管理の杜撰さには背筋が凍る。監督は、盲目の子どもたちがヒマラヤ登山する姿を追ったドキュメンタリー「ブラインドサイト ~小さな登山者たち~」のルーシー・ウォーカー。
だが、衝撃的な映像や証言の数々にもかかわらず、何か足りないと感じるのも事実。原発の問題と放射線の影響については触れられていないからだ。もちろんそれを語ることは、本作の意図するところではない。わかってはいても、そう感じざるを得ない。今の日本人にとっては、原発こそが核兵器よりも身近な核の恐怖だからだ。だがそれに気付くことができるのは、福島原発の事故から我々が学んだ結果。後戻りはできない。あの事故で得た教訓を再確認し、今後目指すべき方向を定めるためのスタート地点として、今いる世界の状況を知るという意味で一見の価値ある作品だ。
Text by いの
オススメ度★★★☆☆
【原題】COUNTDOWN TO ZERO
【監督】ルーシー・ウォーカー
【出演】ミハイル・ゴルバチョフ、ジミー・カーター、パルヴェーズ・ムシャラフ、トニー・ブレア、バレリー・プレイム・ウィルソン、スコット・セーガン
2010年 アメリカ 89分
【配給】パラマウント ピクチャーズ ジャパン
9/1(木)映画の日よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国順次ロードショー
公式サイト:http://www.to-zero.jp/
(c) 2010 NUCLEAR DISARMAMENT DOCUMENTARY, LLC.