「100,000年後の安全」原発を利用する者の、未来に対する責任と覚悟とは？ ： 映画と。

人は誰しも、「未来の世界はどうなっているのかしら？」と多かれ少なかれ空想したことがあるだろう。だが、その想像の及ぶ範囲はせいぜい1世紀先くらいだろうか。正直なところ、100年先でもあまりピンとこないのだけど、本作では、何と10万年先の未来について、真剣に考えている人達が登場する。

その人達は、フィンランドの原子力発電所で使用した放射性廃棄物を処理する施設の建設に携わる人々だ。その廃棄場－オンカロ（フィンランド語で「隠れた場所」の意味）は、地下500メートルに建設され、完成は22世紀。そう、今まさに建設中で、作業員が固い岩盤を粛々と掘り進めているところだ。そして、施設完成後、廃棄物がいっぱいになったら、永久に施設を封印する。
オンカロは10万年の年月を耐えられる設備でなければならない。なぜなら放射能が生命に与える影響が無害になるまで（放射能の半減期）、少なくとも10万年の歳月を要するからだ。10万年！何と気の遠くなる年月だろうか。

この「オンカロ計画」、聞けば聞くほど、想像を絶するような、人類史上、空前絶後のプロジェクトだ。まず、10万年後まで、オンカロを耐久できるほどの堅牢な建築物に仕上げることも、ものすごく困難なことだ。考えてみれば人類はそもそも、耐用年数1万年の建築物すら造ったことがない（エジプトのファラオのピラミッドですら5千年程度だ）。そして、10万年後に世界がどうなっているか想像が及ばない。10万年の間に、今ある国家が滅び、新しい国家が興っているかもしれないし、今使っている言語も残っているかどうかも分からない。文明がより高度に発達しているかもしれないし、あるいは恐ろしいほどに衰退しているかもしれない。10万年前、マンモス狩りをしていたネアンデルタール人が、現在の世界の有様を想像していたとは到底思えない、と映画のなかで分かりやすい例を挙げていたが、言い得て妙だ。オンカロがいかに危険な物質を収納した建造物で、決してこの場所に立ち入ってはいけないという重大な警告を、未来の人々にどうやって伝えていくのか･･･。

映画のなかでは「不確実性の下での意思決定」という言葉が出てくる。オンカロ関係者や有識者のインタビューでも、10万年後の世界の状態について、「○○である」と100％確実だと断言する者はいなかった。しかし、残存する放射性廃棄物をどうにかしなくてはいけない、という思いは共通認識だ。不確実であっても、今ある問題を先送りにせず、結論を出さなくてはならない、という毅然とした思いは伝わってくる。関係者が検討に検討を重ねた上での、彼らの「意思決定」は非常に重いものがあるが、同時にそれは、30万世代先の子孫に至るまで災いは残すべからず、という強い「覚悟」を持っていることに感嘆せずにいられない。

様々な議論のなかでは、オンカロの存在、その危険性を確実に次世代へ伝えたほうがいいという意見と、むしろ存在そのものを忘れ去られるべきだという意見があったという。しかし、マイケル・マドセン監督は、「忘れることを忘れるな」というコンセプトで、この映画を撮っている。だから、遠い未来の「君」に向けてのビデオメッセージのかたちで、オンカロ施設内の様子やインタビューを丁寧に収めている。「忘れてはいけない」という監督の思いは、人間が産み出してしまった負の遺産を、忘却というかたちで清算することを許してはならないという、強い意思表示も思え、胸に突き刺さる。

今回の東京電力福島第一原発の深刻な事故によって、本作をより身近な問題として捉える人は多いと思う。映画のなかでも「地震がある地域には原発は絶対につくらない」とか「放射能を海に廃棄することはあり得ない」などと、日本に向けてのメッセージとしてつくられた映画ではないのに、日本の現況を見透かされているようで、身の置きどころがない。今回の事故をきっかけに、原発に対する人々の意識は確実に変わっているだろう。原発を廃止すべきという意見と、それでも原発をより安全に運用しなくてはいけないという意見。様々な意見が出るのは当然のことだ。だが、今後日本が原発を廃止しようと、継続しようと、今、存在している原発から出される放射性廃棄物は否応なく残る。我々は、その問題からは、逃れることは絶対にできないはずだ。

4基の原発を抱えるフィンランドは、今の世代で重大な決断を下した。では、日本は今後どうするのか？未来の世代に対して、どう責任を果たしていくのか？オンカロの無機質な映像は、SF的な美しさを放つが暖かみがない。そのひんやりとした空気感が見る者にも伝播し、背筋が凍るような、得体の知れない恐怖を増幅させる。日本に住む我々の原発や放射能と向き合う覚悟や責任について、正面から突きつけられているような作品だ。

必見度：★★★★★
Text by 富田優子

監督・脚本：マイケル・マドセン
脚本：イェスパー・バーグマン
2009 年製作／デンマーク、フィンランド、スウェーデン、イタリア／75 分／カラー／16:9／ビデオ
配給・宣伝：アップリンク
公式サイト：http://www.uplink.co.jp/100000/
2011年4月2日より渋谷アップリンク他にて緊急公開中