【TIFF】「地球がくれた処方箋」ジョセフ・ペカン監督インタビュー

大地の力(薬草)とそれらを使った民間療法をもう一度見直してみようというテーマのドキュメンタリー

(第24回東京国際映画祭・natural TIFF部門)

アロマテラピーの人気が高まり、アロマオイル(草花の精油)を簡単に手に入れることができる今、草花の効用が改めて見直されつつあると言えるのではないだろうか。「薬」という字が「草」と「楽」を組み合わせたものであることから、古来より草花が人々を癒してきた存在であったことがわかる。ジョセフ・ペカン監督の新作『地球がくれた処方箋』は、大地の力(薬草)とそれらを使った民間療法をもう一度見直してみようというテーマのドキュメンタリーだ。
静かな語り口と優しい笑顔が印象的な監督が、作品のこと、東日本大震災についての想いを真摯に語ってくれた。

ジョセフ・ペカン監督

——2度目の来日ということですが、今年の来日に不安はありましたか?

私自身はありませんでした。前回の来日(『もうひとつの世界で』TIFF2009)で日本の文化や人々に強い関心を抱いたので、また行きたいという思いの方が強かったです。しかし家族や周りの人は、「地震もまだあるようだし、フクシマの放射能の問題もあるから気をつけた方がいい」と言っていました。NHKの衛星放送がヨーロッパでも見られるので、震災のニュースはずっと見ていて情報を得ていました。
イタリアだけでなく、ヨーロッパの新聞・メディアで何週間も報道されていました。イタリアに原発はありませんが、200キロ圏内にフランスの原発があり、何かあった時はイタリアにも影響が及ぶかもしれないと考えられています。フランスはフクシマの事故のあと、全ての原発で再チェック、再検査を行いました。

——今作も自然と人間の関わりがテーマですが、撮ろうと思ったきっかけなどはあるんでしょうか?

ずっと山の中で生活しているので、人と動物だけでなく、人と自然の関わりに興味を持って生きてきました。今作では、自然と繋がった生活を取り戻そうというところを見せたかった。人間が進歩に向けて歩んでいくのは当然のことで、人間の性格の中に元々あるものですが、大地の重要性も忘れてはいけないと思います。東北の地震と津波は、テクノロジーだけではダメだということを、ある意味教えてくれたのではないでしょうか。災害があり、そこから正しいもの、良き道というのを示唆されたのではないかと思います。テクノロジーが自然に反するということではないのですが、自然の強さも理解する必要がある。その破壊力はテクノロジーを上回ります。人間はもっと謙虚になるべきだと思います。

−−今回の出演者とはどのようにして知り合ったのですか?また彼らはイタリアのどの地域で生活しているのでしょうか?

民間療法を実践している彼らは、私の故郷でもあるアオスタ(北イタリア)の山の中で生活しています。彼らのように草花を使った民間療法に通じている人をずっと探していたのですが、人づてに聞いて会うことができました。草花を山で採り、その精油を抽出して、さまざまな薬として利用する。実際に彼らと同じ生活を送るのは難しいことだと思いますが、自然とのバランスを保ちながら生きている彼らを理解し、リスペクトすることはとても重要だと思います。

−—作品のなかで宗教画が出てきますが、民間療法と宗教には何か関わりがあるのでしょうか?

民間療法は薬草を使いますが、自然の精霊とコンタクトをとるという宗教的な部分があります。また科学や医学では証明できない、心理的な部分に作用する神秘主義のイメージを表現したかったので宗教画を挿入しました。

——ピグミーのシャーマンが火を使って治療するシーンは印象的でしたが、日本でも初詣などで煙を浴びる習慣があるのを思い出しました

あれは科学者が撮ったシャーマンの儀式の映像を借りたもので、実際に私が取材に行ったわけではありません。シャーマニズム(呪術)は神秘主義であり、信じないと効果が得られない。そういったところから、伝統的な民間療法というのは必ず儀式と結びついているんです。

作品の中の「草木がなければ人間は息をすることもできない」という言葉も含めて、監督の言葉や作品からは改めて気づかされることが多い。自然の存在をほとんど感じることのできない日々の生活の中で、忘れかけていた当たり前の価値観について見直すきっかけになったと思う。インタビューでも度々口にされていた、「理解することが大事」「知ることが大事」という言葉も印象的だったが、人間と自然、人間と科学、より良い関係を保つためには、やはり相手を理解することに尽きるのだと思う。

インタビュー・文:鈴木こより

▼『地球がくれた処方箋』データ
英題:Between Earth and Sky
監督:ジョセフ・ペカン
出演:ルイ・ジャンス、ネリー・ベラール、ガブリエーレ・カッチャランツァ
制作:2010/イタリア/73分
(c)DOCFILM

ジョセフ・ペカン監督プロフィール Joseph Peaquin
1997年から現在に至るまでドキュメンタリーを作る。作品はテレビで放映されたほか、さまざまな映画祭に招待される。『もうひとつの世界で』は2009年、第62回ロカルノ国際映画祭と第22回東京国際映画祭に招待されている。

▼第24回東京国際映画祭▼
日時:平成23年10月22日(土)~30日(日)
公式サイト:http://2011.tiff-jp.net/ja/

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