【TIFF_2010】笑いと涙の受賞会見をレポート!

第23回東京国際映画祭の最終日(10/31)、六本木ヒルズにて受賞会見が行われた。受賞者による喜びのコメントのほか、審査員長による受賞理由や総評などを取材するべく会場に向かった。会見は1時間30分に及んだので、抜粋してレポートしたいと思います。

最初に会見席に現れたのは、TOYOTA Earth Grand Prix 『水の惑星 ウォーターライフ』のケヴィン・マクマホン監督と、日本映画・ある視点作品賞『歓待』の深田晃司監督。ちなみに『歓待』ですが、私の周りでは観た人の反応も評判も上々でした。

ケヴィン・マクマホン監督(左)と深田晃司監督(右)

マクマホン監督:
これはカナダとアメリカ北部の湖の叙事詩です。この映画が、地球の反対側の国、日本で受け入れられたことを嬉しく思います。環境問題は難しく複雑なものですが、それらの問題を取り上げる映画が作られ、環境保全に貢献できることを願っています。

深田監督:
映画を作るために尽力してくれた俳優とスタッフ、それからロケ地の墨田区の皆さまに感謝したいと思います。本作は、マルクス兄弟の『オペラは踊る』という作品からヒントを得ています。近年、日本社会には外国からの労働者が入ってきたりして、知らない文化の人たちに対する恐怖が排他的な行動となって現れてしまいがちです。そういったところもありますが、基本的には夫婦の話として見ていただければと思います。

▼「歓待」の作品紹介はこちら
【TIFF_2010】「歓待」何でもない家族に起こる事、誰にでも起こるかも。

続いて、 最優秀アジア映画賞『虹』のシン・スウォン監督が登場。スウォン監督は、資金繰りの難しさに直面していたが、今回の受賞が次回作への励みになったと感謝の意を述べた。

コンペティション部門の発表では、最優秀芸術貢献賞の『ブッダ・マウンテン』のリー・ユー監督が、「東洋の人たちに共感してもらいたいと思い作ったので、本当に満足しています」とコメントし、同作で最優秀女優賞をとったファン・ビンビン(韓国で映画撮影中)には、メールを送って喜びを伝えたと報告した。

ワン・チエン・ユエン(左)と リー・ユー監督

最優秀男優賞の中国人俳優ワン・チエン・ユエン(『鋼のピアノ』)は、劇中のお父さんとは違って、実物は学ラン風の衣装というのもあり青年のよう。高倉健の若かりし頃を思わせる雰囲気があります。個人的には『ビューティフル・ボーイ』で殺人犯の父親を熱演したマイケル・シーンに一票投じていましたが、ワン・チエン・ユエン演じる、娘想いのハチャメチャ父さんにも好感が持てました。今後の活躍にも期待したいです。

ワン・チエン・ユエンさん
初めて東京を訪れ、初めて映画祭に参加して、初めてこのような賞をいただきました。本当に特別な映画祭となりました。授賞式の直後に、一緒に来日した子供に「どんな賞なの?」と訊かれ、「一番すごい賞だよ」と答えました(笑)。また、本作は俳優である父と共演しています。ですから、この賞は父と分かち合いたいと思います。

▼「鋼のピアノ」の作品紹介はこちら
【TIFF_2010】「鋼のピアノ」娘のためにピアノを作る(!)父親が奮闘する人情コメディ

その後、コンペティション審査員特別賞 『一枚のハガキ』の新藤兼人監督と最優秀監督賞と観客賞を受賞したジル・パケ=ブレネール監督『サラの鍵』が登場し、会場は大いに沸いた。とりわけ新藤監督と記者とのやり取りは、監督の独特の話しぶり(「あ、そう」という口ぶりが昭和天皇を想わせます)も相まって、笑いと涙を誘うものとなった。

新藤兼人監督とジル・パケ=ブレネール監督

新藤監督
映画を撮っているうちに98歳になりまして、最後の映画にしようと『一枚のハガキ』を撮りました。皆さんの応援があって撮ることができたと思います。今回、運良く特別賞をいただきました。ありがとう。

男性記者
世界には102歳の映画監督がいるらしいです。最後とは言わず、103歳まで映画を撮って新記録を作ってください。

新藤監督
あのー、もう死が直前に迫ってますから、固い約束はできないけれど、これが最後だと思って撮ったんだけど、応援してくださる方がいるなら、またやってもいいかな。<会場爆笑>
60年ほど独立プロでやってますが、初めからお金がなく金策に奔走する毎日でした。とにかく泣かないで、転んでも泣かないで、映画をつくってきました。泣いては映画はつくれないから。前を向いて、前を向いていくようにしました。<この辺りで、筆者の目頭に熱いものが…>
気づいたら98(歳)になり、最後の1本だと思って『一枚のハガキと』じゃなくて、『一枚のハガキ』を作りました。(タイトルを)まちがえた。もうダメ…。<会場爆笑>

ブレネール監督
二つの賞、とりわけ観客賞は、日本の皆さまに受け入れていただけた証ということで大きな意味を持ちます。多くの観客が泣いているのを見て、僕の映画を感じてもらえて嬉しく思います。あと私も、新藤監督の年齢になるまで映画をつくり続けたいと思います。

また記者席から、「監督はとてもイケメンですが、監督業だけでなく俳優の方もやってみようとは思いませんか?」という問いかけに、「答えはNO!だよ(笑)。カメラの後ろにいる方が気が楽だからね、でもありがとう!」と照れながらコメントする一幕も。そんな事おっしゃらずに、カメラの前にもどんどん登場していただきたいです。

ガッチリ握手を交わす両監督

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そしていよいよ、東京サクラグランプリ『僕の心の奥の文法』ではニル・ベルグマン監督と女優のオルリ・ジルベルシャッツさんが登場!

ニル・ベルグマン監督とオルリ・ジルベルシャッツさん

ベルグマン監督:
あまりにも感動的で言葉がありません。主役のロイがここにいないのが残念です。帰国したらキスしてハグして肩車をしてあげたいです。8年前私の処女作である『ブロークン・ウィング』でこの賞を受賞しました。ご質問に答えられないくらい感動して、代わりにプロデューサーに答えてもらったくらいです。2作目は周りの目も厳しくなりますし、そんな中で賞をいただけたということは大変大きな意味があります。

オルリさん:
アリガトウゴザイマス!こういった映画祭には、様々な事情を抱えた、様々な国の人たちが参加しています。イスラエルも厳しい環境にありますが、それより遥かに困難な国の人々も映画作りをしています。映画をはじめとする芸術がそういった人々に希望を与えることで、少しでも世界を変えることができればと願っています。

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そして最後、審査員長のニール・ジョーダンが登場し、審査過程について次のように述べた。「観客と一緒に映画を見るという映画祭もありますが、東京国際映画祭は審査委員だけで一日3本の映画を見ます。そして2日おきに意見交換します。最終的に、4〜5本の作品に絞り込みました。そしてそれらの中で、どれが一番心打つものであったか、登場人物、作品の完成度について話し合い、結論を出しました」

ニール・ジョーダン

「うん、それで、それで、受賞理由は?」と次のコメントを待っていたら、まさかの終了。「えぇっ、ありえん!ジョーダンは名前だけでいいっつーの!」というツッコミを呑み込み、大人の対応(誰かが訴えるのを静かに待つ)で様子をみることに。
しかしジョーダンは立ち去り、司会からは「時間の都合で終了しました」と告げられるだけ。たしかに15分おしてたけど…。混戦が予想されていただけに、受賞理由は知りたいところ。記者席はザワつき、クレームもちらほら。しばらく残っていたけど何も起こらなそうだと判断し、プレスリリースを待つことに。

そしたら、後からリリースが送られてきました。以下、審査委員のドメニコ・プロカッチさんと根岸吉太郎さんによる受賞理由についてのコメントです。

プロカッチさん:
非常に良い作品が多く、特に最後に残った3本についてはかなり接戦でした。審査委員同士、お互いの意見を話し合いながら、『僕の心の奥の文法』であると満場一致で決めました。この映画は、他の作品よりほんの少し優れていると感じました。小さい世界の中ではあっても、少年と母親、父親、父親が惹かれる近所女性との関係などを通じて、興味深い世界を作りあげていました。

根岸吉太郎さん:
年々東京国際映画祭に集まる作品の質が向上していると感じています。『僕の心の奥の文法』については、少年の気持ちと作り手の気持ち、原作を含めて非常に繊細で、深い心の揺れ動きを描いていると審査員全員が感じました。ベルグマン監督は、一本目の作品でも東京サクラグランプリを受賞していますが、二本目でさらに飛躍していることも評価したことは事実です。

受賞理由も明らかになり、映画祭取材も無事に終えることができたが、今年のTIFFはオープニングの中台問題(台湾勢のグリーンカーペット登場が急きょキャンセルに!)といい、クロージングの会見といい、振り返ってみると色々ありました。ただ、上映作品には大いに楽しませていただき大満足だったので、来年のTIFFにも期待したいと思います。

取材/鈴木こより

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