【TIFF】僕の心の奥の文法(コンペティション)
(第23回東京国際映画祭コンペティション作品・東京サクラグランプリ受賞作品)
1963年イスラエル。束の間の平和な時期を背景に、数年前から成長することをやめた少年アハロンの物語。それはバラバラな家族に反抗するため、それとも来るべき不穏な時代に抵抗するため? 思春期の心の揺れを寓話的に描く。「まるで自分の少年時代のようだ」と心酔したベルグマン監督が、作家デイヴィット・グロスマンの同名小説を映画化。
繊細なアハロンは暴力的なことが苦手な少年だ。彼が求めているのは教養や芸術である。ところが、「インテリと芸術家は生き残れない。現実を受け入れられないからだ」と、ホロコーストの生き残りである父は言う。家にいては自分の望むものが手に入らないため、アハロンは近所に住む若くて美しいピアニスト宅にこっそり侵入し、壁に掛けられている絵画を愛でたり、本を拝借するようになる。
このアハロン役の少年を探すため、監督はイスラエル中の学校を訪問し何千人もの少年たちをオーディションをしたという。「ロイ・エルスベルグはまさに私たちが求めていた、目の奥に深い感情が見える、アーティスト的な素質を持っている男の子でした。撮影が始まり、グロスマンさん(原作者)に似ているということにも気づきました」と、監督は言う。
たしかに主演のロイ・エルスベルグは、アハロンという役を気負うことなく自然に演じている。喜怒哀楽の表現もオーバーなところがなく、目で僅かに訴えてくる感じだ。
これまでも、この小説の映画化を試みた人は何人もいたが、どれも完成には至らなかったという。子どもの内面について書かれているため、映画として表現するには困難な作品だったようだ。本作が生まれたのは、監督が執念でロイ・エルスベルグを見つけ出したことにあるといっても過言ではないだろう。
1960年代のイスラエルは、第二次世界大戦あるいはホロコーストの犠牲者が集結し、子どもたちがそのような悲劇に遭わないよう強い人間に育てようと団結した時期である。映画の中でも、アハロンの友人たちは好戦的な青年へと成長し、それに抵抗するアハロンだけが次第に孤立感を深めていく。そして両親のような、友人のような暴力的な大人になるのを拒み、3年間一切成長することをやめてしまう。
しかしその後アハロンは状況を受け入れるため、または自分を試すため、彼なりの通過儀礼を行うことを決意する。
少年の心を軸に繊細に瑞々しく描かれているが、画面のなかには絶えず緊張感が漂い、見応えのあるドラマになっている。
Text by 鈴木こより
監督: ニル・ベルグマン
出演: ロイ・エルスベルグ、オルリ・ジルベルシャッツ、イェフダ・アルマゴール、エヴリン・カプルン、ヤエル・スゲレスキー、リフカ・グル
原作:『僕の心の奥の文法』/英題:Intimate Grammar
制作:2010/イスラエル
2010年11月1日
[…] This post was mentioned on Twitter by 富田優子 and 鈴木こより, 映画と。. 映画と。 said: 【TIFF_2010】「僕の心の奥の文法」グランプリ受賞!少年の密やかな抵抗を瑞々しく描く。 – http://bit.ly/azcWDt […]
2011年8月27日
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