【LBFF】『EVA<エヴァ>』キケ・マイジョ監督インタビュー

スペインでSF映画の伝統をつくりたいんだ

キケ・マイジョ監督(写真は9月30日のLBFF上映後Q&Aのもの)

第9回ラテンビート映画祭(LBFF)で上映されたスペイン映画『EVA<エヴァ>』のキケ・マイジョ監督が来日。本作は監督にとって長編映画初監督作品。今年のゴヤ賞(スペイン・アカデミー賞)で新人監督賞を受賞し、今後の飛躍も期待されるマイジョ監督のインタビューをお届けする。なお、このインタビューは、9月30日(日)のLBFFでの監督と観客のQ&Aの内容を補足するかたちで行われたものであり、Q&Aの内容も一部盛り込んでいることを付け加えておく。

マイジョ監督が「愛の物語」だと強調する本作。近未来を舞台に、感情を持つ完璧なロボットの完成に心血を注ぐ科学者のアレックス(ダニエル・ブリュール)と、兄ダビッド(アルベルト・アンマン)、兄の妻ラナの三角関係が展開される。アレックスは兄夫妻の娘エヴァ(クラウディア・ヴェガ)の物怖じしない態度や感情豊かな様子に惹かれ、彼女をモデルにしたロボットをつくろうとするが・・・。終盤明らかになるエヴァの“驚愕の秘密”は、正直なところ筆者が想像していた以上のもので、思わず、そうきたかー!と叫びたくなってしまった。映像も洗練されており、よく練られた作品であることに素直に感心した。

 主演は、今年は日本での公開作が相次ぐダニエル・ブリュール(『コッホ先生と僕らの革命』『セブンデイズ・イン・ハバナ』)ということで、ダニエル目当てに本作に興味を持つ人も多いことだろう。マイジョ監督はそんな彼の起用ついて、
「ダニエルはご存じのとおり、素晴らしい俳優だ。本当にカッコいいよね。だからどうしても出演してもらいたかった」とマイジョ監督はダニエルにご執心だったよう。
「でもダニエルは人気者ゆえに、本作の出演オファーをしたとき、彼はすでに6本もの出演映画を抱えていたんだ」。
では、どうやってダニエルを口説き落としたのだろうか。
「この映画がSFということで、ダニエルがすごく興味を持ってくれたんだ。そして、ダニエルと僕が実は個人的な知り合いということもあって、忙しい合間を縫って出演してくれたんだよ」という秘話(?)を明かしてくれた。

また、「SF映画は世界でたくさんつくられているし、いい加減なことはできない」と考えたマイジョ監督は、ロボットについてリサーチを重ねた。わけても興味深かったのは、国や地域でロボットに対する考え方に温度差があるのが分かったことだという。
「たとえば、日本ではロボットは人間に近くて親しいものと考える傾向があるが、欧米ではロボットは人から離れたものと考える傾向がある」。

 なるほど、日本のロボットについて考えてみると・・・。筆者の頭に最初にひらめいたのは、“ドラえもん”だった。確かにドラえもんは感情を持ち、のび太と友情を育み、共存している。対して、本作。アレックスと家事手伝いロボットのマックス(ルイス・オマール(『抱擁のかけら』『ペーパーバード 幸せは翼にのって』)が好演し、ゴヤ賞助演男優賞を受賞)の関係は、親しそうでも、彼らの間に見えない壁があるような、どこか距離を感じる。そういう点にも、人とロボットの関係の考え方が反映されているのだろう。
「欧米はキリスト教が人の行動規範の原則となっているのに対して、日本はそうではない。そういう点も(ロボットに対する)考え方に影響しているのかもしれないね」とマイジョ監督は分析した。

本作はもちろんフィクションだが、マイジョ監督が映画のなかで構築したような、実際にロボットが感情を持つような時代が来たとしたら、監督はどう感じるだろうか?
「そうだね。実際にロボットが感情を持つ時代が、ずっと先になるかもしれないけれど来るかもしれない。そういうときが来たら、きっと面白いんじゃないかな」と笑う。

 実はスペイン初のSF映画となった『EVA<エヴァ>』。そんな快挙(?)を成し遂げたマイジョ監督に、次回作のプランを訊ねると、
「宇宙旅行に関するものなんだ」
とまたもやSF。よっぽどSFがお好きなんだな・・・。監督が手がけた短編映画にもSFモノがあるという。
「SFは、もし○○○○○なら、という仮定の話ができるから、想像力が膨らむんだよね」とその理由を説明。もしかして影響を受けた映画人もSF映画に関連している人たちかと思いきや、「(マーティン・)スコセッシや(フランシス・フォード・)コッポラ」とQ&Aで至極スタンダードな答えをしていたっけ。
「ただ、彼らだけではなくいろいろな人の影響を受けているよ。代表格というのが、その二人だけど」。

インタビューの最後に、マイジョ監督は壮大なプランを教えてくれた。
「実は、スペインでSF映画の伝統をつくろうと思っているんだ。そのためにこれからも頑張るよ!」

(後記)
これまでスペインでSF映画がなかったということに、少なからず驚いた。『永遠のこどもたち』『ブラック・ブレッド』などのように、ファンタジー風の映画も多いので、SF分野も当然あるものと思い込んでいたのだ。マイジョ監督の「SF映画の伝統をつくる」という意気込みを聞いて、もしかしたらこの人がいつの日か「スペインSF映画界の巨匠」というポジションに立つかもしれないな、という期待も膨らんだ。“巨匠と呼ばれるその日まで”、ぜひとも頑張っていただきたい。
なお、記事冒頭にも記載したとおり、マイジョ監督はLBFFでは観客とのQ&Aにも登場。その際の筆者レポートも併せてお読みいただければ幸甚である。

〈プロフィール〉
キケ・マイジョ Kike Maíllo
1975年スペイン、バルセロナ生まれ。短編映画『Las cabras de Freud』(1999)、『Los perros de Pavlov』(2003)を監督後、テレビのアニメシリーズ『Arros covat』の監督・脚本を経て、『EVA < エヴァ >』で長編映画監督デビュー。2012年のゴヤ賞で、見事新人監督賞を受賞した。主な監督作品:『EVA< エヴァ >』(2011)、『Los perros de Pavlov』(2003)、『Las cabras de Freud』(1999)

▼作品情報▼
監督 : キケ・マイジョ
出演 : クラウディア・ヴェガ、ダニエル・ブリュール、ルイス・オマール、アルベルト・アンマン
2011年 / SF / スペイン / 94分
配給 : 松竹
© 2011 Escándalo Films / Instituto Buñuel-Iberautor / Ran Entertainment
LBFFの他にも2012年10月27日(土)より開催の「“シッチェス映画祭”ファンタスティック・セレクション」(公式サイト)内で上映

▼「第9回ラテンビート映画祭」開催概要▼
詳細は下記でご確認を↓
第9回ラテンビート映画祭公式サイト
公式ブログ:http://lbff.blog129.fc2.com/
公式Facebook:http://www.facebook.com/LatinBeatFilmFestival
公式Twitter アカウント:@LBFF_2012

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