【LBFF_2012】スペイン・アカデミー賞に輝いた『悪人に平穏なし』を上映、エンリケ・ウルビス監督「この映画のテーマは“秩序と混沌”」

エンリケ・ウルビス監督

 東京・新宿バルト9で開催中の「第9回ラテンビート映画祭」で9月29日、今年のゴヤ賞(スペイン版アカデミー賞)で作品・監督など6部門に輝いた『悪人に平穏なし』が上映され、エンリケ・ウルビス監督が来日した。
 2004年に起きたマドリッドの爆弾テロ事件をベースにしているとして話題になった本作だが、「確かにインスピレーションを得ているのは確かですが、この映画で描いているのは、個人のちょっとした間違いが最終的に悲劇に繋がってしまうこと」だというウルビス監督。実は、善と悪の曖昧さ、社会の落とし穴や矛盾といったいわば普遍的な事柄を語っている。「04年のテロに限らず、スペイン社会で実際に起こったことを組み合わせて作り上げていきました。それぞれの組織の中で人々は自分の仕事をきっちりやっているが、何かの間違いで悪い方向へ転がってしまう。また、この主人公は、その反対のパターン。この映画のテーマは“秩序と混沌”なんです」
 本作の主人公サントスは、元特殊部隊にいた精鋭ながら、現在は第一線を外れ、行方不明者捜査課にいる捜査官。泥酔して立ち寄ったバーで、コロンビア人のオーナーら怪しげな3人の男女を撃ち殺してしまう。1人を取り逃がしたサントスはその男の行方を追うのだが、事態は思わぬ方向に展開し……。映画の主人公には珍しく、冒頭からサントスが観客に見せる顔はまさに“極悪人”のそれ。話が進むにつれて彼の様々な面も見えてくるのだが、タイトル『悪人に平穏なし』とはまさにサントスを指し示したものなのだろうか?
「確かに主人公のことも指していますが、“自分の仕事をちゃんとやらない人”“自分のまわりの社会に害を与える人”のこと全てを指しています。ちょっと内容を明かすと、映画の中にある警官が登場するのですが、彼は全ての情報を把握し、状況をコントロールしていると自負している。でも、結局は彼が一番の悪なんじゃないか?……といったことも実は示唆してるんです」
 うーん、登場人物一人一人をじーっくり観察してもう一度見直したくなるコメント……。ラテンビート映画祭での東京での上映は終わってしまったが、横浜、京都、大阪、博多での上映はこれからなので、ぜひ色々と読み取って味わっていただきたい。本作はまた、来年2月からヒューマントラストシネマ渋谷での公開も決まっている。
 年初のゴヤ賞受賞もあり、国際的にも注目を浴びたことから、本作の本国公開から今までほぼ休みなしで働いているというウルビス監督。やっとラテンビート映画祭での上映を前に、次回作の構想にも着手できる余裕が生まれたという。「次は『悪人~』よりユーモラスに、経済状況が大きな問題となっている中で、上流階級と一般市民の姿を描きたい。“全員が全員の敵である”みたいな社会状況を、ピカレスク(悪漢・ならず者)小説的手法で映画にできたらと思っています」
 これからも映画を通じてスペインの多様な側面を見せていってもらえることを期待したいが、まずは『悪人に平穏なし』の歪でリアルな“秩序と混沌”を楽しんで。

ラテンビート映画祭での『悪人に平穏なし』上映予定:
<横浜ブルク13>10月7日(日)13:15~、<梅田ブルク7>10月19日(金)21:00~、<T・ジョイ京都>10月20日(土)18:30~、<T・ジョイ博多>10月18日(木)21:00~

Profile
Enrique Urbizu
1962年スペイン・ビルバオ生まれ。1980年代に数々の短編映画を監督した後に長編映画デビュー。ロマン・ポランスキー監督、ジョニー・デップ主演の『ナインスゲート』(99)や『砂の上の恋人たち』(09)では脚本を担当している。また、マドリッド・カルロスⅢ世大学映像学部では講師も務め、後進の指導にも当たっている。

▼作品情報▼
悪人に平穏なし
原題:No habra paz para los malvados
監督・脚本:エンリケ・ウルビス
出演:ホセ・コロナド、フアンホ・アルテロ、ロドルフォ・サンチョ、エレナ・ミケル
配給:シンカ
2013年2月 ヒューマントラストシネマ渋谷にて公開
2011年/スペイン/114分
© 2011 Lazona S.L.U, Telecinco Cinema, Manto Films AIE

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