【LBFF】ペーパーバード 幸せは翼にのって
PAPER BIRD…スペインにも日本の折り紙のような、紙で折った鳥(鳩)があるのを初めて知った。冒頭、喜劇役者ホルヘが息子を学校に送っていくとき、後ろ手に嬉しそうに握りしめていた紙の鳩。空襲警報のサイレンが鳴り慌てて非難した地下鉄の駅の構内で、隣に座っていた男の子にホルヘがあげた紙の鳩。これは幸運のお守りのようにも思える。
ホルヘが所属する劇場の面々の顔がとてもいい。犬の曲芸の老夫婦、メガネを掛けないと、何も見えず舞台から落下してしまう年取った一輪車乗り。とうの立った女性歌手、ダンサー、手品師などなど。いずれも売れなさそうな、それでいて誇りをもった芸人たちの面々。こんな一座だから、お客さんはいつでも閑古鳥、給料はいつも滞っている。それでも興行主は誰を首にするわけでもない。どこか家族的雰囲気のある一座ではある。
時代は、スペイン内戦からフランコ政権の独裁時代の揺籃期にかけて。1939~40年頃である。スペイン映画では度々取り上げられている題材で、『蝶の舌』とも年代が重なっている。国民がふたつに割れたスペインのもっとも悲しい時代だ。
当然、この芸人たちの一座も時代とは無縁ではいられない。楽しいショウの裏側で、ひとりひとりにさまざまな運命が訪れる。その悲喜こもごも。空襲で家族を失ったホルヘは、一年の時を経て、一座に戻ってくる。その間何をしていたかは明かされることはない。ただひとつ言えるのは、生きることの意味を失っていたということである。戦時中はフランコをからかった歌を歌っていた彼は、当局から目をつけられているのだが、もはや彼にとっては、抵抗運動も無意味なものに映っているようだ。偶然孤児のミゲルを引き取った彼と親友のエンリケは、当局に監視され続けているマドリードでの緊張の生活より、巡業に出る道を選ぶ。犬の曲芸の老夫婦など、お馴染の顔ぶれが仲間として集まり、行く先々の興行は好評である。
この旅の中で、ホルヘは、自分の生きる道をみつけていく。それは、孤児のミゲルから教わった事、女性歌手ロシオから教わった事であり、親友エンリケとの喧嘩、その中から見つけたことである。人生で一番大切なことは何か。「愛する人は失ったとしても、いつも自分の傍にいる」…失ったことを嘆くだけではなくて、今身近にいる、愛する人たちを守り共に生き抜くこと。それが生きることの価値であると。
紙の鳩とは、その祈りを形にしたものである。愛する人たちが無事であることへの祈り、平和であることへの祈り。私たちがいまここにいるのは、そうした人たちの願いがあってこそ。そうした人たちが自分の傍にいるからこそである。ホルヘから孤児ミゲルへ、その思いは受け継がれていったに違いない。映画では描かれない大人になったミゲルのその後の人生。それは、きっと豊かで愛情深いものだったのだろうと想像させられる、素敵なラスト・シーンに乾杯!
Text by 藤澤 貞彦
オススメ度:★★★★★
製作年:2010年、製作国:スペイン
監督:エミリオ・アラゴン
出演:リュイ・オマル、カルメン・マチ、イマノル・アリアス
『ペーパーバード 幸せは翼にのって』公式サイト
8月13日(土)銀座テアトルシネマほか全国順次公開
2010年9月18日
[…] 【LBFF_2010】 『Paper Birds』~紙の鳥に込められた愛する者への祈り~ […]