コッホ先生と僕らの革命
今や男女ともにFIFAランキングでトップクラスを誇るサッカー大国ドイツも、コンラート・コッホが教育現場にサッカーを導入した当初は“イギリスで生まれた反社会的なスポーツ”とみなされていた。帝国主義下にあった19世紀末のドイツにおいて、学校の体育といえば体操か軍隊式の行進であり、規律と忠誠心を養うことを授業の目的としていた。コッホは担当したクラス内で貧富の差によるイジメがあることを知り、生徒たちにフェアプレイの精神を教えるべく、英語の授業にサッカーを導入する。
本作は、当時のドイツでは一般的でなかったゲームスポーツ=サッカーの魅力に惹かれていく少年たちの姿が描かれているが、同時に、学校教育の重要性についても改めて考えさせられる内容になっている。コッホが生徒たちに「イギリスに対するイメージ」を訊ねるシーンがあるが、生徒たちが抱いている偏見やデマに、コッホ先生と同様、自分も思わず苦笑いしてしまう。その頃のドイツはイギリスを仮想敵国にしていたという背景があるのだが、「近隣諸国への敵意というのは、教育によって簡単に作れてしまうのだな」と、昨今のアジア情勢を思うと他人事とは思えない印象的な場面になっている。
教育方針はその国の指針を映し出す鏡といえる。学校が機能していない国は、必ずと言っていいほど国も機能していないものだ。英国帰りのコッホは他の教師たちに比べ進歩的であったため、生徒たちに思想を植え付けるのではなく、自分たちで考え、その信念に従う勇気を育む教育を目指した。皮肉にも、帝国主義下ではそのような教育は秩序を乱す危険なものとされてしまうのだが・・・。しかし偏見に満ちた大人たちと違い、サッカーの素晴らしさを肌で知った少年たちは、弾圧には屈しまいと、大人たちも舌を巻くような奇策とチームプレイを展開していく。ひとりでは成し得ないことも力を合わせれば時代をも変えられるという、このドラマチックで壮大な物語は実話に基づくものであり、この上なく痛快な青春ドラマに仕上がっている。しかも、先生役のダニエル・ブリュールをはじめ美男ぞろい。スーパープレイはなくとも、白い制服のままゲームに興じる彼らの姿に思わずうっとり。
他国との相互理解を深める手段としてスポーツや文化の果たす役割は計り知れない。オリンピックイヤーに公開というのも絶妙なタイミングであり、今秋イチ押しのオススメ作品である。
9月15日(土)TOHOシネマズ シャンテ他、全国順次ロードショー
▼作品データ
監督:セバスチャン・グロブラー
出演:ダニエル・ブリュール、ブルクハルト・クラウスナー、ユストゥス・フォン・ドーナニー
制作:110分/ドイツ
配給会社:ギャガ
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公式サイト:http://kakumei.gaga.ne.jp/