【YFFF】オフサイド・ガールズ
(ヨコハマ・フットボール映画祭2012上映作品)
核開発や人権問題等で国際社会に緊張感を与え続ける、中東の大国イラン。イスラエルがイランを攻撃するかもしれない、イランはホルムズ海峡を封鎖するかもしれない等のニュースにも事欠かない。だがサッカーに関して言えば、アジアの強豪国の一つで、日本の良きライバル。W杯に対する熱い想いは我々と同じだ。代表選手のプレイに一喜一憂し、勝利すれば喜びを爆発させる(ヨコハマ・フットボール映画祭(YFFF)で本作と2本立て上映される『テヘラン、25時』の作品紹介記事をご参照頂ければ・・・)。ただ違うのは、イランには女性は競技場でスポーツ観戦ができない法律がある、ということ。
本作は、W杯出場をかけた試合見たさに、イランの少女達が男装して競技場への潜入を試み、そこで巻き起こる珍騒動を描いたもの。ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員特別賞)を受賞するなど、国際的に高い評価を得たジャファル・パナヒ監督の作品だ。
それにしても、タイトルにつけられた「オフサイド」とは言い得て妙だ。少女達の行動は、イランの社会通念上では「反則」に該当する。だが、オフサイドは対戦相手にPKを与えるほどの致命的反則ではない(もちろん、オフサイドの判定でがっかりすることはあるけれど)。また、相手のディフェンスラインから飛び出すタイミングは微妙なものもあり、試合を観戦していても「本当にオフサイド?」と首を捻りたくなる判定もある。つまり、社会規範=ディフェンスラインから少しだけ飛び出してしまった、でもアウトかセーフか微妙じゃない?という含みを込めたタイトルがしゃれている。
そのしゃれっ気のなかに、本作のテーマがある。「他国の女性は観戦できるのに、なぜイラン女性はだめなのか?」という少女達の純粋な疑問だ。この問いに、少女達を拘束した兵士も明確に答えられず、タジタジだ。だが疑問を解決するために、彼女達は何も政権転覆とか革命を起こそうなどと大それたことを企んでいるのではない。大好きなサッカーを見たいという一念による行動なのだ。そんな彼女達の果敢な(?)行動は、それこそサッカーで言うところの「オフサイド」程度で、国の根幹を揺るがすほどのものではないと思う。とは言え、彼女達が「試合を見たい」と叫べば叫ぶほど、W杯出場を切望する想いに激しく共感すると同時に、(我々から見れば)不可解な法律に違和感を覚え、少しくらいの改正は必要なのでは・・・という考えが、観る者の頭をかすめる程度に浮かぶという、さじ加減が絶妙だ。
イスラム圏の女性は物静かで、多くの規律に縛られているというイメージを持つ人は多いと思う。だから「オフサイド」をくらっても男子顔負けにサッカー談義に夢中になる姿には、やや面食らった。国際社会では様々な火種を抱えるイランだが、サッカーを愛し、故郷を愛し、家族を愛する市井の人々の姿は我々と違いはない。国や言葉や宗教が異なっても人の本質は万国共通だという普遍的なメッセージを感じる。サッカーは人と人とを繋ぐ最良の手段で、「何か」を変えるきっかけになるかもしれないという希望を感じさせる映画だ。
オススメ度:★★★★★
文:富田優子
▼作品情報▼
監督:ジャファル・パナヒ
イラン/コメディ/92 分/2006/35mm
舞台:イラン・アザディスタジアム ドイツワールドカップアジア予選
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【ヨコハマ・フットボール映画祭2012開催概要】
日時:2012 年 2 月 19 日(日)、25 日(土)、26 日(日)
場所:シネマ ジャック&ベティ
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(共同開催)
ショートショート フィルムフェスティバル&アジア「フットボールプログラム presented by Jリーグ」
日時:2012年2月20日(月)~26日(日)(※21日(火)は休館)
場所:ブリリア ショートショート シアター