【YFFF_2012】『テヘラン、25時』W杯出場の厳しさ、そして喜びを知ればこそ

(ヨコハマ・フットボール映画祭2012上映作品)
1997年11月16日の「ジョホールバルの歓喜」。そう、サッカー日本代表がW杯初出場を決めた、歴史的出来事だ。あの時は、W杯に行けることが嬉しくて嬉しくて、日本中が歓喜のるつぼ状態だったことを思い出す。

その一方で、対戦相手であったイランはどうだったのだろう?イランはジョホールバルでの敗戦で、結果的に、オーストラリアとの大陸間プレーオフでW杯出場を懸けることとなった。だが、第1戦のホームはドローに終わり、メルボルンでの第2戦は、何と後半30分を過ぎて、0-2で負けているという絶体絶命の状況だった。イランにとって、この試合をドローで終わらないと、W杯への道が完全に閉ざされてしまうのだ。

本作『テヘラン、25時』は、その試合の後半30分過ぎから始まる。テヘランでテレビ観戦している若者達の姿が映る。その直後、イランは神がかり的な攻撃で、立て続けに2点を奪い、追いつく。そして長いアディショナルタイム(8分!)が過ぎ、ドローのまま試合終了。そして、イランのW杯出場が決まったのである。

その直後、多くの人たちがテヘランの街に繰り出す。そういう人たちを、カメラはただ単に映し出していく。その映像は、特に美しく撮ろうとか、技術的に工夫を凝らしているということはなく、喜びに湧く人々を捉えていくだけ。歓喜の雄叫びをあげる人、イラン国旗を掲げる人、Vサインをする若い女性、エースストライカーのダエイ選手の名を連呼する若者、車のクラクションを鳴らしまくる人・・・。本来なら市民を取り締まるために、警備に当たっている軍の人々の表情もにこやかなのも、印象的だ。

本当に何の変哲もない映画である。正直なところ、ホームビデオの域を出ていない。だが、心底から喜びに浸るイランの人々の姿を見ていると、自然と笑みがこぼれるのはなぜだろう。それは我々もW杯に出場することの厳しさを分かっているからだ。そして、W杯に出場することの誇らしさや喜びも知っているからだ。国や民族や宗教や政治体制が違えども、W杯への思いは一緒。だから、わずか20分という短いドキュメンタリー映画だが、イランの人々に対して、親近感やシンパシーを感じられ、そのことが嬉しい。異国の見ず知らずの人たちとも、サッカーを媒介として心が通い合うような、一緒にハイタッチをしたくなるような作品だ。

(追記)
テヘランの街で歓喜に湧く人々のなかで、代表監督のビエイラ氏の名を叫ぶ人も出てくる。バルディエール・“バディ”・ビエイラ監督は、その後2006~2009年までAC長野パルセイロの監督を務め、昨年のヨコハマ・フットボール映画祭(YFFF)で上映された『クラシコ』にも登場(参考記事はこちら)。個人的には本作とYFFFとの縁を一層感じてしまうような場面だった。

オススメ度:★★★☆☆
文:富田優子


▼作品情報▼
監督:セイフラー・サマディアン
イラン/ドキュメンタリー/20 分/1999
舞台:フランスワールドカップ 予選大陸間プレーオフ直後のテヘラン


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【ヨコハマ・フットボール映画祭2012開催概要】
日時:2012 年 2 月 19 日(日)、25 日(土)、26 日(日)
場所:シネマ ジャック&ベティ
公式サイト
Twitter

(共同開催)
ショートショート フィルムフェスティバル&アジア「フットボールプログラム presented by Jリーグ」
日時:2012年2月20日(月)~26日(日)(※21日(火)は休館)
場所:ブリリア ショートショート シアター

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