2010年映画祭部門ベストシネマ10(富田優子)

年末年始は皆さんどのようにお過ごしでしたでしょうか?
私は箱根駅伝を中心に、天皇杯、高校サッカー、高校ラグビー、大学ラグビー・・・とスポーツ観戦三昧に過ごしておりました。
さて、そんな観戦の合間を縫って(?)、昨年の映画ライフを回顧する意味も込めて、2010年ベストシネマ10を考えました。ただし、こちらの「映画と。」では少し趣向を変えて、2010年に国内の映画祭で上映された作品から年間ベスト10を発表したいと思います。勝手ながら選出基準を定義すると、映画祭で上映され、かつ2010年に劇場で公開されなかった映画としました。なので今年以降、劇場公開予定の映画(下記の3位、5位、8位、10位)も含まれております。

1. テトロ/フランシス・フォード・コッポラ監督(ラテンビート映画祭) → レビュー
2. サラの鍵/ジル・パケ=プレネール監督(東京国際映画祭) → レビュー
3. 冷たい熱帯魚/園子温監督(東京フィルメックス) → レビュー
4. ウィンターズ・ボーン/デブラ・グラニック監督(東京国際映画祭)
5.神々と男たち/グザヴィエ・ボーヴォワ監督(東京国際映画祭)
6.ブライトン・ロック/ローワン・ジョフィ監督(東京国際映画祭)
7.旅立ち(原題)/カトリーヌ・コルシニ監督(フランス映画祭
8.わたしを離さないで/マーク・ロマネク監督(東京国際映画祭) → レビュー
9.幻の薔薇/アモス・ギタイ監督(東京フィルメックス) → レビュー
10.詩(仮題)/イ・チャンドン監督(東京フィルメックス)

レビューを書いている作品については、上記のリンク先をご参照いただければ・・・と思うので、その他の映画について少々コメントを。

4位『ウィンターズ・ボーン』
『あの日、欲望の大地で』(08)でシャーリーズ・セロンの少女時代を演じて注目されたジェニファー・ローレンスが家族を守ろうと奮闘する17歳の少女を熱演。貧困ゆえに裏社会に足を踏み入れてしまう痛ましさ、それでも家族のために立ち向かおうとする決死の姿に心を打たれる。米国の弱者や底辺社会を描いた点では『フローズン・リバー』(08)との類似点もあり興味深い。ジェニファー、今季の賞レースでゴールデングローブ賞をはじめ、続々と候補に挙がっており、オスカーノミネートも夢ではない状況。

5位『神々と男たち』
昨年のカンヌ国際映画祭グランプリ(第2席)も納得の力作。信仰を保つ者が強いのか武器を持つ者が強いのかを問われたようで、人間はここまで崇高になれるものなのか・・・と、その強さに心震える。修道士を演じるランベール・ウィルソンはじめ男優陣が俗世のオーラを消し去り、本物の修道士のようにしか見えなかったのがすごい。彼らの歌う賛美歌も清冽で美しい。

『ブライトン・ロック』© 2010 StudioCanal S.A/UK Film Council/BBC

6位『ブライトン・ロック』
グレアム・グリーンの同名小説が原作。原作のややこしい人間関係を簡素化し、時代を1964年に設定したことがうまい。英国では1965年に死刑執行停止がなされていることもあり、殺人を犯し、死刑を回避しようとアリバイ工作を試みる少年(サム・ライリー)の恐怖心が本作全体を覆っており、緊迫感のある映画に仕上がっている。同時にファッションなども英国テイストに溢れていて、英国好きの心をくすぐる。原作とは違うスリリングなラストに「奇跡」と「救い」を感じた。『コントロール』(07)のサム・ライリー(超美形で声が超セクシー!)が見られて嬉かったが、ヘレン・ミレン、ジョン・ハートなど英国演技派が脇を固めていたこともおいしい要素。

7位『旅立ち(原題)』
DVDでは『熟れた本能』という邦題で発売されたが、なんちゅうタイトルをつけてくれたんだ・・・と脱力・・・。この邦題ではエロ要素が前面に出過ぎ!確かにクリスティン・スコット・トーマス演じるブルジョワ主婦が夫(イヴァン・アタル)以外の男(セルジ・ロペス)との情事にのめり込む話ではある。クリスティンの体当たりのベッドシーンだけではなく、本題はヒロインの空虚な心を描き出している点が大きなウェイトを占めるのだ。この邦題ではどうも誤解を与えるようで大いなる不安を感じてしまう。
とにかく本作ではクリスティンの熱演が光る。エゴ丸出しで恋に生きようとするヒロインの姿に共感できないが、一方で不器用にしか生きられなかった悲哀も感じさせ、「悪女」と断じるには躊躇してしまう、その絶妙さに唸らされた。クリスティンは2位にランクインした『サラの鍵』でもそうだったが、得意のフランス語を活かし、フランス映画界での活路を切り開いていることを実感。むしろハリウッドの大作で主人公の母親役や上司役に甘んじるよりは、このような小規模ではあるが力のある作品で主演したほうが、本来の彼女の演技力を堪能できるというものだ。

10位『詩(仮題)』
昨年のカンヌ国際映画祭脚本賞受賞作品。少女集団暴行事件を金で揉み消そうとするプロットには正直なところ嫌悪感を覚えるが、台詞と台詞の行間の厚みが素晴らしい。登場人物の台詞がそう多いわけではないのに、行間からほとばしる人物像や感情に心揺さぶられた。特にヒロインの祖母(ユン・ジョンヒ)と孫とのバドミントンのシーンと、彼女の書いた詩が被害者の少女へ帰結するシーンが圧巻だった。こんな映像表現があったのか・・・としばし放心状態。

いかがでしたか?ミニシアター系の映画館の閉鎖の報が続き、ますます「映画祭でしか見られない映画」が増えていくような気がします。個人的にはフランシス・フォード・コッポラのような巨匠の新作ですら映画祭のみの上映にとどまっていることが何とも納得しがたいのですが・・・。今年も映画祭や特集上映に出来る限り足を運んで、皆さんに情報発信していきたいと思います。今年もどうぞよろしくお願いいたします!

Text by 富田優子

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